初デート

「ね、大ちゃん今度のオフの日空いてるよね?」
「あ? 何でだよ」
「クラスのみんなでその日集まるらしいの。大ちゃんに声かけてきてって頼まれたから」

三月もそろそろ中盤を過ぎた頃である。まだクラスメイトからは敬遠されがちな青峰に声をかけられるのは桃井か桜井くらいのもので、青峰にクラス会を参加させたいというのはもっぱら女子の主張であるために桃井が声をかけることになったのだが。

「あーわり、その日用事だわ」
「あれ? その日なんかあったっけ?」
「出かけんだよ」
「誰と?」
「夏目と」

桃井はぽかん、と青峰を見つめた。

***

「ふーん、クラス会ねー」
「そ。そろそろこのクラスでいるのも終わりになるしってなことだとさ。っつか聞いてないの?」
「あー……友達がそんなこと言ってたような言ってなかったような……」
「夏目最近練習の時以外ぼーっとしてね? 大丈夫かよ?」

夏目はやはり上の空で「んー……」と肯定とも否定ともつかない返事を返し、高尾に視線を向けて「まあ無理かな」と答えた。

「何が」
「だからクラス会」
「あぁ……。でもバスケ部もオフだろ? なんか用事?」
「出かけるのよ」
「誰と?」

夏目はためらうように一瞬言葉に詰まって、視線を下に落とすと小さく呟いた。

「青峰と」

高尾は何度か瞬きを繰り返し、夏目の肩を掴む。
夏目が驚いて高尾の顔を見ると高尾はにやにやと悪どい笑みを浮かべていた。

「夏目さん、初デートってやつですね」
「は、……あ!? な、なんでそうなんのよ! 別にデートとかそんなんじゃ……!」
「付き合ってる男女が初めて休日にともに出かける。これを初デートと呼ばずして何と呼ぶか! 照れるな照れるな応援してるぜ! で、どこ行くんだよ?」

ぷしゅう、と音が聞こえそうなほど茹であがった夏目は消え入りそうな声で言う。

「……ゆ、遊園地」
「……さすが夏目、王道を外さないその姿勢、俺は好きだぜ」

高尾の生温い視線に夏目は数秒ぷるぷると震えると、赤い顔のまま高尾を睨みつけて精一杯声を張り上げた。

「バカッ!!」



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