番外編 | ナノ


*生まれる命、増える愛







「かーたま、赤ちゃんうごいてる〜!」

「元気だ〜!」


そっとお腹に手を当て、きらきらと目を輝かせる双子に琴音はにっこりと微笑む。


『そうですね。きっとみんなに早く会いたいのでしょう。』


琴音の言葉に双子は顔を見合わせると、嬉しそうに笑う。


「私も早く会いたい!」

「僕も〜!」

「ほらほら2人とも、そろそろ寝る時間ですよ。」


鬼灯に声をかけられ、2人ははーいと返事をすると、最後にもう一度そっとお腹を撫で、部屋に入った。


それを見届けると、鬼灯は琴音の隣に腰かける。


「どうですか?体調は。」

『はい、お陰さまで。鬼灯様、色々とありがとうございます。』

「いえ、このくらい当然ですよ。私は子供を産むことはできませんから、身の回りのことしかできませんが。」

『それだけで十分助かっていますよ。』


ふわりと微笑む琴音に鬼灯も頬を緩め、そっとお腹を撫でる。


「私も、あなたに早く会いたいです。」

『ふふ、よかったですね。みんな待っていますよ。』


そんな2人の言葉に反応するかのようにお腹を蹴った赤ちゃんに2人は顔を見合わせる。


『やっぱり聞こえているのですね。』

「そうみたいですね。」


それから少し話をし、2人も寝室に入り、眠りについた。









それから翌日、生まれそうだと言う琴音を連れて鬼灯は産婦人科へとやって来た。


『鬼灯様、すみません…。お仕事があるのに…。』

「いいんですよ。最近はこの日のために少し多く仕事をしていましたから、私が抜けても然程支障はでないでしょう。」

『ありがとうございます…。』


琴音は力無く微笑みつつ、気掛かりなことを口にする。


『あの、萌衣梨と優杜希は…』

「大丈夫です。縁さんが見てくださっていますから。」

『そうですか…。それなら、よかったです。』

「えぇ。ですから、あなたはこの子を産むことだけに集中してください。」


そう言ってぎゅっと琴音手を握る鬼灯。


そんな鬼灯の手を握り返しつつ、琴音ははい、と笑った。







琴音が分娩室に移ってから数時間後、元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。


その声に鬼灯が顔を上げると、医師が分娩室から出てきた。


「おめでとうございます、鬼灯様!元気な女の子ですよ。」

「そうですか…!ありがとうございます。あの、妻は大丈夫でしょうか?」

「えぇ。今はお疲れですが、母子共に健康ですよ。」


その言葉にほっと安堵しつつ、鬼灯は医師に頭を下げ、すぐさま縁に電話をかけた。


「もしもし、鬼灯です。…えぇ、先程生まれました。ですので、萌衣梨と優杜希を連れてきていただけますか?はい、お願いします。」


電話を切り、ほっと一息ついた鬼灯がベンチに腰掛け待っていると、縁たちがやって来た。


「縁さん、2人の面倒を見てくださり、ありがとうございました。」

「いいんだよ、そんなことは。この子らはあたしの大事な孫なんだから。」


ふっと笑みを浮かべる縁に鬼灯も小さく笑う。


「とーたま、赤ちゃんは〜?」

「かーたまは〜?」


くいくいと着物の裾を引っ張る双子を抱き上げると、鬼灯はこっちですよ、と琴音のいる病室へと向かった。








ガラリと扉を開けると、琴音は病室で眠っていた。


「あ、かーたま!」

「こら優杜希、病室では静かに。」


鬼灯がたしなめると、優杜希は小さくごめんなさいと謝り、萌衣梨と共にベッドに駆け寄った。


「かーたま、寝てるね…。」

「うん…。」

「疲れているんですよ。」


すると声に反応したのか、琴音がゆっくりと目を開けた。


『ん…鬼灯…様…?』

「起こしてしまいましたか。すみません。」

『いえ…。あ、萌衣梨と優杜希も来ていたのですね。』

「うん!かーたま、大丈夫?」

『大丈夫ですよ。ありがとう。』

「本当によく頑張ってくれました。ありがとうございます。」

『いえ、鬼灯様の支えがあったからですよ。母さまも来ていただき、ありがとうございます。』

「いいのよ。あんたが元気そうでよかったわ。ところで赤ちゃんは?」

『あ、はい。こちらに。』


そう言うと、琴音は反対側のベビーベッドで眠っていた赤ちゃんをそっと抱き上げた。


「「わぁ〜…!!」」


初めて見る赤ちゃんに双子は思わず感嘆の声をあげる。


「ちっちゃい…!」

『ふふ、そうですね。』

「琴音、赤ちゃんを抱かせてくれますか?」

『はい、もちろんです。』


鬼灯は琴音から赤ちゃんを受け取ると、じっとその愛らしい顔を見つめる。


「可愛いですね。あなたに似ています。」

『ふふ、そうですか?』

「えぇ。」


すると、赤ちゃんがぱちりと目を開けた。


「あ…起きたみたいですね。」

「え!とーたま、見せて!見せて!」

「ぼ、僕も!」

「ほら。」


すっと双子に見えるように屈むと、双子はそうっと赤ちゃんに触れる。


「えへへ、かわいい。」

「うん、かわいい。」

『ふふ、これで2人もお兄ちゃんとお姉ちゃんですね。』

「お兄ちゃんと…」

「お姉ちゃん…!!」


琴音の言葉に双子は嬉しそうにきらきらと目を輝かせる。


「ところで、名前は決まってるのかい?」

「はい。琴音と決めていたんです。」


鬼灯が琴音を見ると、ふわりと微笑み生まれたばかりの娘を見つめる。


『名前は…璃乃愛と言います。』

「璃乃愛か…いい名だね。」


縁がぽつりと呟くと、名前を知った双子は改めて璃乃愛を見つめる。


そして顔を見合わせると、すうっと息を吸い込み――


「「これからよろしくね、りのあ!」」


2人同時に声をかけた。


その声に反応するようにふわりと笑った璃乃愛に、その場にいた全員も自然と笑みを浮かべたのだった。


END

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