*生まれる命、増える愛
「かーたま、赤ちゃんうごいてる〜!」
「元気だ〜!」
そっとお腹に手を当て、きらきらと目を輝かせる双子に琴音はにっこりと微笑む。
『そうですね。きっとみんなに早く会いたいのでしょう。』
琴音の言葉に双子は顔を見合わせると、嬉しそうに笑う。
「私も早く会いたい!」
「僕も〜!」
「ほらほら2人とも、そろそろ寝る時間ですよ。」
鬼灯に声をかけられ、2人ははーいと返事をすると、最後にもう一度そっとお腹を撫で、部屋に入った。
それを見届けると、鬼灯は琴音の隣に腰かける。
「どうですか?体調は。」
『はい、お陰さまで。鬼灯様、色々とありがとうございます。』
「いえ、このくらい当然ですよ。私は子供を産むことはできませんから、身の回りのことしかできませんが。」
『それだけで十分助かっていますよ。』
ふわりと微笑む琴音に鬼灯も頬を緩め、そっとお腹を撫でる。
「私も、あなたに早く会いたいです。」
『ふふ、よかったですね。みんな待っていますよ。』
そんな2人の言葉に反応するかのようにお腹を蹴った赤ちゃんに2人は顔を見合わせる。
『やっぱり聞こえているのですね。』
「そうみたいですね。」
それから少し話をし、2人も寝室に入り、眠りについた。
*
それから翌日、生まれそうだと言う琴音を連れて鬼灯は産婦人科へとやって来た。
『鬼灯様、すみません…。お仕事があるのに…。』
「いいんですよ。最近はこの日のために少し多く仕事をしていましたから、私が抜けても然程支障はでないでしょう。」
『ありがとうございます…。』
琴音は力無く微笑みつつ、気掛かりなことを口にする。
『あの、萌衣梨と優杜希は…』
「大丈夫です。縁さんが見てくださっていますから。」
『そうですか…。それなら、よかったです。』
「えぇ。ですから、あなたはこの子を産むことだけに集中してください。」
そう言ってぎゅっと琴音手を握る鬼灯。
そんな鬼灯の手を握り返しつつ、琴音ははい、と笑った。
*
琴音が分娩室に移ってから数時間後、元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。
その声に鬼灯が顔を上げると、医師が分娩室から出てきた。
「おめでとうございます、鬼灯様!元気な女の子ですよ。」
「そうですか…!ありがとうございます。あの、妻は大丈夫でしょうか?」
「えぇ。今はお疲れですが、母子共に健康ですよ。」
その言葉にほっと安堵しつつ、鬼灯は医師に頭を下げ、すぐさま縁に電話をかけた。
「もしもし、鬼灯です。…えぇ、先程生まれました。ですので、萌衣梨と優杜希を連れてきていただけますか?はい、お願いします。」
電話を切り、ほっと一息ついた鬼灯がベンチに腰掛け待っていると、縁たちがやって来た。
「縁さん、2人の面倒を見てくださり、ありがとうございました。」
「いいんだよ、そんなことは。この子らはあたしの大事な孫なんだから。」
ふっと笑みを浮かべる縁に鬼灯も小さく笑う。
「とーたま、赤ちゃんは〜?」
「かーたまは〜?」
くいくいと着物の裾を引っ張る双子を抱き上げると、鬼灯はこっちですよ、と琴音のいる病室へと向かった。
*
ガラリと扉を開けると、琴音は病室で眠っていた。
「あ、かーたま!」
「こら優杜希、病室では静かに。」
鬼灯がたしなめると、優杜希は小さくごめんなさいと謝り、萌衣梨と共にベッドに駆け寄った。
「かーたま、寝てるね…。」
「うん…。」
「疲れているんですよ。」
すると声に反応したのか、琴音がゆっくりと目を開けた。
『ん…鬼灯…様…?』
「起こしてしまいましたか。すみません。」
『いえ…。あ、萌衣梨と優杜希も来ていたのですね。』
「うん!かーたま、大丈夫?」
『大丈夫ですよ。ありがとう。』
「本当によく頑張ってくれました。ありがとうございます。」
『いえ、鬼灯様の支えがあったからですよ。母さまも来ていただき、ありがとうございます。』
「いいのよ。あんたが元気そうでよかったわ。ところで赤ちゃんは?」
『あ、はい。こちらに。』
そう言うと、琴音は反対側のベビーベッドで眠っていた赤ちゃんをそっと抱き上げた。
「「わぁ〜…!!」」
初めて見る赤ちゃんに双子は思わず感嘆の声をあげる。
「ちっちゃい…!」
『ふふ、そうですね。』
「琴音、赤ちゃんを抱かせてくれますか?」
『はい、もちろんです。』
鬼灯は琴音から赤ちゃんを受け取ると、じっとその愛らしい顔を見つめる。
「可愛いですね。あなたに似ています。」
『ふふ、そうですか?』
「えぇ。」
すると、赤ちゃんがぱちりと目を開けた。
「あ…起きたみたいですね。」
「え!とーたま、見せて!見せて!」
「ぼ、僕も!」
「ほら。」
すっと双子に見えるように屈むと、双子はそうっと赤ちゃんに触れる。
「えへへ、かわいい。」
「うん、かわいい。」
『ふふ、これで2人もお兄ちゃんとお姉ちゃんですね。』
「お兄ちゃんと…」
「お姉ちゃん…!!」
琴音の言葉に双子は嬉しそうにきらきらと目を輝かせる。
「ところで、名前は決まってるのかい?」
「はい。琴音と決めていたんです。」
鬼灯が琴音を見ると、ふわりと微笑み生まれたばかりの娘を見つめる。
『名前は…璃乃愛と言います。』
「璃乃愛か…いい名だね。」
縁がぽつりと呟くと、名前を知った双子は改めて璃乃愛を見つめる。
そして顔を見合わせると、すうっと息を吸い込み――
「「これからよろしくね、りのあ!」」
2人同時に声をかけた。
その声に反応するようにふわりと笑った璃乃愛に、その場にいた全員も自然と笑みを浮かべたのだった。
END
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