番外編 | ナノ


*新たな命






「琴音、大丈夫ですか?」


不安げに自身を見つめる鬼灯に琴音はにっこりと微笑む。


『はい。そんなに心配なさらなくとも大丈夫ですよ。』

「ですが、あまり無理しないで下さいね。予定日も近いですし。」


カレンダーにちらりと視線を移しながら鬼灯が言うと、琴音は素直に"はい"と返事した。


『ですが、今は大丈夫ですから、鬼灯様は座って待っていらしてください。』

「………分かりました。何かあったら、すぐ言うんですよ?」

『はい』


琴音の笑顔と返事に鬼灯は少々安心しつつ、ダイニングへと向かった。


少しして料理ができると、琴音は鬼灯を呼ぶ。


「どうしました?」

『お料理ができましたので、一緒に運んでいただけますか?』

「はい、分かりました。」


そこで2人は分担して、テーブルに料理を運んだ。


『ありがとうございます。冷めない内に食べましょう。』

「えぇ。いただきます。」

『いただきます。』


他愛もない話をしながら、いつものように2人は食事を楽む。


食事が終わると、リビングのソファに2人で並んで座り、現世のテレビを見た。


『ふふっ、面白いですね。』

「そうですね。私はこの芸人さんが好きです。」

『分かります。あと、こちらの方も。』

「あぁ、確かに。」


そんな話をしていると――


『あら。今、お腹の子が少し蹴りました。』


琴音がお腹に手を当てながら、そう言った。


「おや。元気ですねぇ。」

『ふふっ、そうですね。』

「触っても?」

『どうぞ。』


琴音の了承を得ると、鬼灯はそっと彼女のお腹に手を沿え、優しく撫でる。


「私があなたの"父親"ですよ。」


そんな鬼灯の真似をするように、琴音もお腹に手を当てる。


『私が"かあさま"ですよ。』


言いながら、顔を見合わせて笑うと、またお腹の子が返事をするように蹴った。


『まぁ。分かるのでしょうか。』

「そうかもしれませんね。」


鬼灯はそう言うと、少しお腹に顔を近づける。


「元気に生まれてきてくださいね。早く顔が見たいです。」

『鬼灯様…』


鬼灯の言動に琴音は幸せそうな笑みを浮かべる。


『私も…かあさまも、早く会いたいです。……あ、また蹴ったわ。』

「やっぱり反応するんですね。」

『きっと、鬼灯様に似て頭のよい子なのでしょう。』

「あなたに似たら、きっと愛らしいでしょうね。」


そんなことを言いながら、2人は笑い合った。


『はぁ…私、すごく幸せです。幸せすぎて怖いくらいです。』

「私もですよ。あなたのような素晴らしい妻に恵まれ、こうして子供も授かったのですから。」

『ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいです。』

「本当のことですからね。」

『ありがとうございます。大好きです、鬼灯様。』

「私も愛してますよ、琴音。」


そう言って2人がどちらからともなく唇を重ねようとした瞬間――


『あ…!』

「どうされました?」

『今、お腹の子がまた蹴りました。』

「それは…子供の前では…」

『そういうことをするなという意味なのでしょうか…?』


思わず固まっていた2人であったが、クスクスと笑みをこぼした。


『この子が生まれてくるまでは、ダメみたいですね。』

「手厳しいですね…。」


そんな冗談を言っていると、突然、琴音がお腹を押さえた。


『うっ……!』

「琴音!?どうしました!?」

『陣痛がっ…生まれ…そう…ですっ…』

「!!分かりました。すぐにタクシーを呼びます。」


そして少しすると、朧車タクシーが家に着き、鬼灯は琴音を抱えて乗り込んだ。


「すぐに病院までお願いします。」

「分かりました!」







病院に着くと陣痛室に移り、そこで時間を過ごした。


「琴音様、落ち着いて、リラックスしてくださいね〜。」


看護師に言われ、琴音はゆっくりとした呼吸を繰り返した。


「琴音…」


鬼灯は苦しげな琴音に何もできずにいる自分に苛立った。


しかし、こればかりは仕方のないこと。


鬼灯は自分の想いが伝わるようにと、彼女の手を握った。


そして、医師がやって来ると、琴音は分娩室へと移った。


ここからが出産の始まりである。


鬼灯は廊下のベンチに座り、ただじっと待っていた。


すると、1人の美しい女性と、数人の子供たちが病院に駆け込んできた。


そして、鬼灯を見るなり、そちらに駆け寄った。


「アンタ、鬼灯だね?琴音はどこだい?」

「あなたは…縁さん?」

「そうさ。この子たちはあたしの子。つまり、琴音の兄弟たち。」

「あぁ。でもどうして人の姿に?」

「さすがに本来の姿で来るのはどうかと思ったからね。」

「なるほど。」

「で、琴音は?」

「あの部屋の中で頑張っています。」

「そうか…。」

「母さん、姉さん頑張ってるの?」

「そうだよ。お前たちは私とここで大人しく待つんだよ。」

「「「はい!」」」

「それから…」


言いながら、縁は鬼灯に視線を移す。


「お前の連絡のお陰で、こうして娘の出産に立ち会うことができた。礼を言う。」

「いえ、間に合われてよかったです。」


そして、琴音が分娩室へと移ってから数時間経過した頃、分娩室から"おぎゃあ!!おぎゃあ!!"と、元気な泣き声が聞こえてきた。


「「「!!」」」


待っていた鬼灯たちが、顔をあげると、少しして医師が出てきた。


「琴音様の旦那様でいらっしゃいますか?」

「はい…!妻は、子供は、無事ですか…!?」

「はい、母子ともに健康ですよ。」


医師の言葉と笑顔に、鬼灯たちはほっと安堵した。


「ですが出産で奥様は疲れておいでですので、面会はもうしばらくお待ちください。」

「分かりました。ありがとうございました。」

「いえ。いやぁ、それにしても、奥様はすごいですね。」

「え?」

「おや?奥様から聞いていらっしゃいませんか?実は――」
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