番外編 | ナノ


*新たな命





数時間後、病室に移った琴音と子供に、鬼灯たちは面会をしに行った。


「入りますよ。」


一声かけて中に入ると、ベッドには琴音が寝ていた。


『あ…鬼灯様』


琴音は鬼灯の姿を見ると、にっこりと微笑んだ。


鬼灯はそんな彼女に近づくと、そっと頬を撫でる。


「よく頑張りましたね。生んでくれて、ありがとうございます。」

『いえ、鬼灯様こそ、ずっと見守ってくださってありがとうございました。』

「琴音」

『母様…!来てくださってたんですね。ありがとうございます。』

「当たり前でしょう。大事な娘の出産なのですから。」

「「「姉さん、お疲れさま!」」」

『みんなも来てくれたのですね。ありがとう。』


そう言って嬉しそうに笑う琴音に鬼灯は声をかける。


「聞きましたよ。先生に。」

『え…?』

「出産のリスクについてです。」







数時間前――


「実は、こういうケースは珍しいですから、まだあまり詳しくは分かっていないんですが、
彼女のような、元々鬼ではなかった方は、出産が難産になったり、最悪の場合、命を落とす危険性があると言われているんです。」

「「え…!?」」


驚く鬼灯と縁に医師は続ける。


「それでも彼女は何の迷いもなく生むと決断されていました。とても意思の強い、素敵な奥様ですね。」







「なぜ言わなかったんです?」

『ごめんなさい…でも、どうしても生みたかったんです。鬼灯様も楽しみにしていらっしゃいましたし、私自身も本当に楽しみで…。』

「まぁ、その気持は分かりますが…あなたがいなくなっては元もこもないんですよ?」

『はい…ごめんなさい…。』

「ですから、もし何かまた決断しなくてはならないことがあれば、私に相談してくださいね。」

『はい…分かりました。』

「約束ですよ?」

『はい』


そんな2人の様子に縁は僅かに笑みを浮かべた。


(この男は…本当によく琴音を思ってくれているようだな…。)


『あ、鬼灯様、母様、隣に赤ちゃんがいますから、見てあげてください。』


琴音に言われ、隣のベビーベッドに視線を移すと――


「え……2人?」


そこには2人の赤ちゃんが眠っていた。


『はい。双子ですよ。それも男女の。』

「双子…?」


驚きのあまり、少し固まってしまっている鬼灯に、琴音はクスリと笑う。


『黙っていてごめんなさい。でも、びっくりさせたくて。』

「そう…だったんですか。とても驚きました。」

『ふふっ、抱っこしてあげてください。』


琴音に言われ、鬼灯は2人の赤ちゃんの内の1人をそっと抱き上げた。


『そっちの子は、お姉ちゃんです。』

「ということは、女の子ですね。」

『はい。』


腕の中にいる自身の子は柔らかくて、温かい。


初めての感覚に、鬼灯は息を飲んだ。


『どうですか?鬼灯様。』

「とても…愛らしいですね。」

『ふふ、じゃあ今度は男の子も抱っこしてあげてください。』

「じゃあ、女の子は私に抱かせてくれるかい?」

「はい。」


そう言うと、鬼灯は縁に赤ちゃんを渡した。


「かわいいな。琴音に似ている。」

「かあさま、僕にも見せて!」

「私もー!」

「僕も僕も!」

「分かったよ。ほら。」


そう言って兄弟たちが女の子を可愛がっている間に、鬼灯は男の子を抱き上げた。


『男の子の方は、鬼灯様に似ていらっしゃると思いませんか?角とか、眉とか、鼻とか。』

「そうですね。2人がこれからどう成長していくのか楽しみです。」

『そうですね。』


そして、縁と兄弟たちは男の子も可愛がると、そっとベッドに寝かせた。


「それじゃあ、私たちはそろそろ帰るよ。」

『はい。来ていただいて、本当にありがとうございました。』

「私の方こそ、お前とお前の子供の顔が見れてよかったよ。ありがとう。また会いに来る。」

『はい、ぜひ。』


琴音の笑顔に縁も微笑むと、兄弟たちに声をかける。


「ほら、お前たち、挨拶しな。」

「姉さん、バイバイ!」

「またね!」

「こっちにも遊びに来てね!」

『えぇ。また遊びに行きますね。』


じゃあね〜と手を振りながら、兄弟たちは帰っていった。


それを見届けると、鬼灯は琴音の手を握った。


「琴音、改めてお疲れ様でした。」

『はい、ありがとうございます。』

「ですがきっと、これからの方がもっと大変だと思います。ですから、2人で一緒に色んな壁を乗り越え、子供たちを育てていきましょう。」

『はい、鬼灯様。』


ふわりと笑う琴音の頬に手をそえ、鬼灯はそっと顔を近づける。


「愛してます…琴音」

『私もです…鬼灯様』


それから鬼灯は、琴音の唇に自身のそれを重ね合わせた。
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