地獄の沙汰も嫁次第 | ナノ

えげつなき戦い






『鬼灯様、お疲れ様でした。』

「ありがとうございます、琴音。」


テレビ出演の終わった鬼灯は、付き添いで来ていた琴音の頭を優しく撫でる。


『鬼灯様、とても素敵でした。』

「そうですか。あなたにそう言ってもらえると嬉しいですね。」

「鬼灯様〜!!」


名前を呼ばれ振り返ると、先日知り合ったばかりのアイドル、ピーチ・マキが駆け寄って来た。


「おや?マキさん。聴きましたよ、デビューシングル。」

『私も聴きました。マキさん、CDデビューおめでとうございます。』

「聴かれてたんですね…。あ、ありがとうございます。あと、こないだは失礼しました。」


頭を下げるマキに鬼灯はいえいえ、と返す。


「以前は清純・悪女キャラの設定がブレッブレでしたけど、最近の天然路線はとても合ってると思いますよ。」

「なんで私の芸能遍歴をやけにしっかり説明するんですか!なんか恥ずかしい!」


少々困ったように言うマキに苦笑しつつ、琴音は鬼灯に視線を移す。


『私、何か飲み物買ってきますね。』

「あぁ、いいですよ。自分で行きますし。」

『いえ、行かせてください。妻として鬼灯様のサポートをさせていただきたいのです。』


ぐっと拳を握り、意気込む琴音に鬼灯は分かりました、と頷く。


「では、お願いします。」

『はい』


小さく微笑み、その場を後にする琴音の後ろ姿を鬼灯は満足げに見る。


「健気な奥様ですね。」

「えぇ、自慢の妻です。」


マキの言葉に大きく頷くと、後ろからADの声がかかった。


「マキさ〜ん。取材で〜す。」

「は〜い。」


返事をしつつ振り返ると、そこにいた人物にマキは思わずうっ、と声を漏らす。


「よう〜マキちゃ〜ん!CD発売おめっとさ〜ん!なんだい?男の声がするぜ?」


にやにやと笑いながらマキに近寄った小判であったが、傍にいた鬼灯を見た瞬間、声を上げながら吐血した。


「人の顔を見るなり吐血するヤツが多いですね。最近。」

「う、うぅ…」


小判はふらふらと倒れこむと懐から薬を取りだし、それを飲んだ。











『えっと、お茶は…あ、これですね。』


自販機でお茶を購入した琴音は、先程の収録での鬼灯の様子を思い出す。


((鬼灯様、素敵だったなぁ。それにしてもあんなにも完璧な方なのだから、きっとどこへ行ってもおもてになるんだろうな…。))


自分は鬼灯の妻という立場にはいるものの、いつも傍にいられる訳ではない。


仕事先での事など気にしていては仕方がないと思いつつも、やはり愛するが故に気になってしまう。


そんな自身の悪い癖に琴音は苦笑いを浮かべる。


((いけませんね…。こんな事を考えていると鬼灯様に知れたら、きっと叱られてしまいます。))


琴音は自身を奮い立たせると、小走りで鬼灯の元へと向かった。











『鬼灯様、お茶です。どうぞ。』

「ありがとうございます、琴音。」


戻ってきた琴音は鬼灯にお茶を渡すと、彼の前に立っていた小判に視線を移す。


『あら?あなたは…小判さん?』

「えぇ、えぇ。先日はどうも、奥さん。」


琴音に挨拶をしつつ、小判は鬼灯とマキを見据える。


「で、話は戻りますが、もう一瞬でいいんで付き合って破局してくれません?ちょっと、そこのホテルに入るだけでいいんで。」


悪い顔の小判に琴音は表情を青ざめさせる。


『こ、小判さん、それはどういう…?』

「要するに、この二人ができてるっつう写真が欲しいんすよ〜。」

「ついにぶっちゃけましたね。カストリ雑誌記者め。」


眉間に皺を寄せ、睨み付ける鬼灯に構わず小判は琴音を見つめる。


「ですからね?奥さん。ちょいと旦那様をお借りさせてもらえませんかねぇ?わっちを助けると思って!ね?」

『…………です…。』

「え?」


琴音はぎゅっと着物の裾を握るとうつ向いていた顔を上げ、小判をじっと見つめた。


『嫌です…!嘘でもっ、小判さんの頼みでもっ、鬼灯様が他の方と浮気するなんて…絶対嫌ですっ…!!』


瞳を涙で潤ませ、必死に訴える琴音にさすがの小判も狼狽える。


「あぁ奥さん、そんな泣かねぇでも…。」


それでも尚、ぽろぽろと涙をこぼす琴音を鬼灯はぎゅっと抱き寄せる。


「琴音、大丈夫ですよ。誰に何と頼まれようとも、私は浮気など絶対にしません。私はあなたさえいてくれれば、それでよいのですから。」

『鬼灯様…』


ぎゅっと自身の胸に顔を押し付ける琴音の髪を優しく撫でつつ、鬼灯はギロリと小判を睨み付ける。


「あなた…私の妻を泣かせるとはいい度胸ですね…!」

「あ、いやっ、そのっ…」


弁解しようとする小判を金棒で殴り、鬼灯はカメラを取り上げるとフィルムを取り出した。


「ぐはっ…!!あっ…な、何するんすかっ…!!」

「すでに何枚か撮ってるでしょ?消去します。ついでに携帯も。あぁこれ、シャッター音出ないよう改造してますよね。犯罪ですよ。」


言いながら鬼灯は取り上げた小判の携帯をいじっていく。


「か、返してくださいよっ!ちょっと!」


手を伸ばすも返してもらえず、小判はぐっと唇を噛み締める。


(ちくしょう…!こいつと関わるとろくなことがニャイで。しかし我慢、我慢。感情的になった時点でこいつにゃ負ける。)


「ほら、返してやりますよ。」


ようやく返された携帯を受け取り、小判は中を確認する。


「はい…って何メモリーいっぱい床の写真入れてるんすか!あっ、保護設定してある!保護解除していちいち削除するのがめんどくさい〜っ!!」

「では、私たちはこれで。さぁ琴音、行きましょう。」


妻を抱き寄せながら去っていく鬼灯に小判はふつふつと込み上げてくる怒りに体を震わせる。


「ンニ゙ャァァァァ!!!!」

「!!?」


突然の大きな叫び声に目を丸くするマキを、小判はきっと睨むように見据える。


「マキーっっ!!!!おめぇ、全力の色目使ってあいつに電話番号渡してこい!!」

「はあ!?何言ってんの!?」

「あの男をだまくらかせたら、玉のこしだぞ!?悪いこたぁ一つもねぇだろうが!おめぇもプロの芸能人なら歌手デビューの次を考えな。
あの美人の妻からあの男を横取りしろ!そんで電撃結婚さね。これは記事うんぬんよりわっちのプライドの問題だ!なんとしても食い物にしたらぁ!!」

「ほう…」


言い切った瞬間、聞こえてきた低い声に小判はまたもや吐血する。


「去ったと見せかけて話を聞いている。こんなありふれた手口なのに…。」


隠れていた壁をぐしゃりと片手で握り潰し、鬼灯は小判を睨む。


「やはり感情的になると、判断が甘くなるんですねぇ。さぁ、どう食い物にしてくれるんでしょう?」


壁の陰から出てきた鬼灯はマキの前に立つと、じっと彼女を見据える。


「マキさん、使いますか?私に色目を。」

「つ、使いません!使えません!」

「電話番号くれるんですか?」

「あんた、どさくさに紛れて結構ちゃっかりしてんな!ていうか浮気する気あるじゃねぇか!」

「違いますよ!琴音のためです。琴音はマキさんが好きですからね。」

「あぁ、そういうことなら…」


納得したマキは隣にいた琴音に電話番号を渡した。


『ありがとうございます。』


嬉しそうに笑う琴音にマキも微笑み返す。


鬼灯はその仲良さげな様子を満足げに見ると、今度は小判の胸ぐらを掴み上げた。


「いいですか?本当に何か変なこと書いたら、権力と腕力のすべてを使って潰しますからね。総合的に。もしくは、奪衣婆が先日自費出版したヌード写真集を猫又社宛てに100冊送る。」

「あのババア本気で出したんかい…。」

「ネットの一部では割と話題になっていますよ。それに話題の先取りはゴシップの本領でしょう。」

「わっちはもうあのババアとは関わりたくニャあですよ!もうあんたらと関わんのもこりごりでさぁ!」


叫ぶように言うと、小判は逃げるようにその場から去って行ったのだった。














その数日後、本当に猫又社宛てに奪衣婆から写真集が送られ、それを見たクシャミ編集長は後ろ足を骨折し、全治一ヶ月となったそうだ。


END

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