地獄の沙汰も嫁次第 | ナノ

地獄の沙汰とあれやこれ






『EU地獄…でございますか?』


聞き返す琴音に、鬼灯は"えぇ"と返事する。


「今日、そのEU地獄を治めていらっしゃるサタン様が来られるのですよ。」

『わぁ…!!お会いしてみたいです…!!ご一緒させてもらえませんか?』


キラキラと目を輝かす琴音に鬼灯はため息をつく。


「ダメですよ。遊びではないのですから。」


きっぱりと断られ琴音はうなだれたが、ダメ元でもう一度鬼灯を見上げた。


『どうしても…いけませんか…?』

「!!」


上目遣いで可愛らしく聞かれ、鬼灯はドキリと胸が高鳴った。


そしてまた、ため息をつくと口を開いた。


「あなたの頼みとあっては仕方ないですね…。閻魔大王に頼んでみますよ。」

『本当ですか!?』


たちまちぱぁっと表情を明るくさせる琴音。


「ですが、許可がでなければ諦めてくださいね?」


鬼灯の言葉に、琴音は"分かりました"と頷いた。


「では、行きましょう。」

『はい!』









「琴音ちゃんも一緒に?うん、いいよ〜。」


閻魔大王の言葉に琴音は目を輝かせながら"ありがとうございます"と礼を述べた。


しかし、それとは対照的に鬼灯は軽く舌打ちした。


「えぇ!!何で許可したのに不機嫌そうなの!?」

「……いえ、何でも。」


すると、鬼灯は琴音をちらりと見た。


(サタン様に惚れられでもしたら厄介ですから連れてきたくなかったのですが…仕方ないですね。)


相変わらず過保護な鬼灯はため息をつきつつ、閻魔大王に視線を移した。


「それより早く行きますよ。あなたのせいで遅れているのですから。」


鬼灯の言葉に3人は小走りで、閻魔殿へ向かった。









中に入ると、サタンは既に到着していた。


「すみません、お待たせしてしまって!」


(こいつが閻魔か…いかにも人が良さそうだ。)


「よろしくどうぞ。」


サタンは貼り付けたような笑みを浮かべると、閻魔に手土産を渡した。


「あぁ〜これは、ご丁寧に。」

「いえいえ、こちらこそ急にお邪魔しまして。」


閻魔大王は椅子に座ると、口を開いた。


「ゆっくりお話ししたいところですが、私も忙しい身でして。案内は部下にさせましょう。」


(フッフッフッ…目的は偵察だ。案内が誰だろうと構わん。)


「ぜひ、ご自由に見て回ってください。」


(そうするつもりだ。)


「こちらが、私の補佐官の鬼灯です。」


(お?)


閻魔大王に紹介され、鬼灯はぺこりと頭を下げた。


「優秀な部下です。安心して下さい。鬼灯君、くれぐれも粗相の無いようにね。」


鬼灯は"はい"と返事すると、ゆっくりとサタンに歩み寄った。


「よろしくお願いいたします。」

「あぁ、よろしく。ところで、そちらの方は?」

「あぁ、彼女は彼の妻です。」


閻魔大王が紹介すると、琴音はサタンに柔らかい笑みを向けた。


『はじめまして、琴音と申します。』


(おぉ…!!中々の美人だ!これが日本の大和撫子というものか…!)


「今日は彼女にも同行していただきますので、よろしくお願いします。」









廊下に出ると、鬼灯と琴音が先頭に立ち、サタンはその後ろを着いて歩いた。


(フンッ…鬼にしては細っこい奴だな。簡単に潰せそうだ。)


サタンがにやりと笑うと鬼灯はピタリと歩みを止め、サタンを振り返った。


「サタン様は背が大きくていらっしゃいますね。」

「え」

「私など、小さく見えるでしょう。」

「え?あ…そ、そうだね。」


再び歩き出した鬼灯の背中にむかって答えつつ、サタンは動揺する。


(何だこいつ…もしや、私の心を見透かして…。いや、まさかな…。あ!)


サタンは日本のゲームのキャラクターを頭に思い浮かべた。


(最近の日本のゲームだと長身で冷静、切れ長の目に丁寧口調は強敵キャラの基本!しかも…)


サタンはちらりと、鬼灯の隣にいる琴音を見る。


(美人の妻つきだ…!これは油断できないぞ…。)


「着きました。こちらが名物、熱湯の大釜です。」

「おぉ〜!あの有名な。」


((私も初めてです…。))


「熱いですから、お気をつけ下さい。」


鬼灯が扉を開けると、たちまち湯気が立ち込めた。


(おぉ…!!)


中を見ると――


「あっつい!!熱い!!熱い!!めちゃ熱い〜っ!!」


閻魔大王が釜の中で、悲痛の叫びを上げていた。


(うぉっ!?)


その姿に、サタンは口を開けたまま固まってしまった。


「あぁ、鬼灯君!!ちょうどよかった助けて〜っ!!」

『閻魔様っ…!?』

「だ、大丈夫なの!?あれ!」


サタンは思わず鬼灯と閻魔大王を交互に見比べ、おろおろし始めた。


「鬼灯君!煮えちゃうよ〜っ!!助けて〜っ!!に、煮えちゃう〜っ!!」

「ほら!」


サタンは思わず鬼灯を諭すように見たが、鬼灯は微動だにせず無表情のまま口を開いた。


「ご覧ください。あれが天下の閻魔大王です。」

「鬼灯君!冷静に解説してないで助けてくれ〜っ!」

「サタン様の御前ですよ。みっともない。」

「あぁ〜っ!!死ぬっ!!死ぬ〜っ!!」

「大体、もう死後じゃないですか。」

「いいから助けんかーっ!!アホたれーっ!!」

『ほ、鬼灯様っ…!!閻魔様を助けてあげてくださいっ…!!』

「琴音…。あなたは本当に優しいですね。」


鬼灯はサタンの前だということを忘れ、琴音をそっと抱き寄せた。


(いや君がドS過ぎるだけでしょ!?ていうか人前でよくいちゃつけるな…!)


「でも大丈夫ですよ。閻魔大王は丈夫ですから。」


鬼灯は琴音の頭を優しく撫でると、閻魔大王に視線を移した。


「チッ…閻魔大王も年貢の納め時か…。」


ぽつりと呟くと鬼灯はすっかり縮こまっているサタンに一言断り、閻魔大王を引き上げた。


「閻魔大王のダシが取れましたね。」

「はぁ〜…うっかり滑って…。」

『閻魔様、大丈夫でございますか?』

「琴音、心配などしなくても大丈夫ですよ。」

「ちょっと鬼灯君!?ありがとう、琴音ちゃん。優しくしてくれるのは君ぐらいだよ。」


(な、何なんだこいつらは…!この事態をうっかりですます閻魔も閻魔だが…。)


「でも体が温まったぁ〜。」


(あぁ!普通に無事だ!!)


「ご案内は私と琴音がやりますので、余計なことはしないでもらえますか?」

「分かったよ。」

「あ、そこの足元…」

「え?あぁーっ!!」

『!!』


閻魔大王は足を滑らせ、落ちてしまった。


『え、閻魔様っ!』


琴音は慌てて台から降り、閻魔大王に駆け寄った。


一方、鬼灯は閻魔大王のことを気にする様子もなく、釜の淵を触った。


「釜のぬめりがひどいですね。掃除のし直しです。」

「ほ、鬼灯君…。」


(何て上司に厳しいんだ…!!私、部下にあんな対応されたら…泣く!!)


『閻魔様、本当に大丈夫でございますか…?』

「ありがとう〜琴音ちゃんっ!本当に君はいい子だね…!!」


心配そうに見つめる琴音に閻魔大王は涙ぐみながら答えた。


すると、近くで拷問をしていた獄卒に鬼灯が注意する。


「ほらほらそこ!手を抜かないでしっかりやりなさい!鬼たるもの慈悲なんか持たない!こうですこう!」


言いながら、鬼灯は倒れている閻魔大王の頭を金棒で容赦なく叩いた。


『鬼灯様…容赦ない…。』


これにはさすがに琴音も苦笑いを浮かべる。


「いたッ!!あいたたたッ!!ちょっと鬼灯君!?」

「あぁ、すいません。わざとでした。」


悪びれる様子もなく、さらりと言う鬼灯にサタンは青ざめた。


(こここ、怖いっ!!何なの!?あの子!!ジャパニーズ、何考えてるのか分からないっ!!)


そこで、サタンは自分が部下を叱った時のことを思い出した。


(ゲームのデータ消されたぐらいであんなに怒るんじゃなかった…。)


「サタン様。」


(あぁ…!悪魔のみんなっていい子なんだなぁ…!)


「サタン様!」

「は、はいっ!」


ようやく声をかけられていることに気付き、サタンは慌てて返事した。


「大変失礼いたしました。次の地獄へ参りましょう。」


再び歩き出した鬼灯にサタンは「は、はいっ!」と答えると、その後を追った。



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