これの続き






「サイケ、ちょっと待ってろ」
津軽はサイケの頭を撫でながら立ち上がろうとすれば、サイケは小さく笑って裾を引っ張った。
「あ、つがる。だいじょうぶだよ」
首を傾げれば、サイケは笑ってから目を閉じて耳をすませた。その様子につられるように目を閉じてみる。


音が、聞こえる。
響くような低音、そして物が破壊されていく音。



その音に2人は小さく笑う。
結局いつだって臨也と静雄は無意識下のタイミングが合ってる。

「サイケ、今日は家来るか」
「えっ、いいの?」
いつもは臨也が止めるから行けないが、今日はその臨也は寝ている。そして今は2人が居ない方が都合が良いだろう。
というのは建前だが。
「あぁ、文句は言わせない」
「つがるかっこいい!」
満面の笑みを浮かべて津軽に抱きついた。
「しっ…」
その様子には口角を上げながら、津軽は人差し指をサイケの口に押しあてる。
「あ、そうだったね」
「あぁ」
いつも可愛がってくれる臨也の頬に口付けた。
「おい、サイケ」
「ん、いつもつがるがやってくれるおまじない、うれしいからいざやくんにも。ね」
「……仕方ねえな」
お前がいつも嬉しいなら。
それでもなんだか悔しくなって、津軽はサイケの頬に口付ける。
「えへへ、これでうまくいくね」
つがるのおまじないはひゃくにんりき、だもんね。



*



「いぃざぁやぁぁあ…!!」
扉を破壊しながら、玄関を突入した静雄はデスク横の椅子に人影を見付けるとゆっくりと扉を床に下ろした。
「…寝てんのか」
俺が来てるのに?
あんなに気配に敏感な臨也がどうして。動揺しながら椅子に近付けば見覚えの有る羽織。

「………」
(きっとサイケが言ったんだよな)

思いながらも、優しい二人を思う反面何処か面白くないと思うのも事実だった。羽織を取りながら、2階にある臨也の部屋に運ぶべきかと吹き抜けて見える部屋の窓を仰ぐ。

「……ひさしぶり、だ」
最近池袋に臨也が来てなかった事を痛感し、むしゃくしゃして殴りに来たのを思い出した。

(ほんとに黙ってりゃ…まぁ、マシなのに)

「ジャイアニズム120%でいいから、殴られに、来やがれ」
「…たまには優しくしてもバチ当たらないんじゃない」
「は?」
「や、シズちゃん」
ニヤリといつもの笑みを浮かべながら臨也は膝を組み替えながら、デスクに頬杖をつく。ちらりと回りを見渡して肩を竦めた。
もう寝ていた様子は欠片もない。
「…扉、また壊したの」
「マジで寝てたんだな」
「会話してくれるかな?」
バカでも出来るでしょ。
お互いに睨み合ってから、苦笑する。
「扉壊したのはムカつくし、サイケが居ないのはきっと津軽のとこ行ってるってのも面白くない。けど、その羽織掛けてくれたこととシズちゃんがいることに免じてプラマイ0ね」
「俺が居るのはプラスになんのか」
「!?や、いや、勘違いするなよ!?シズちゃんなんか、大っ嫌いなんだからね!」
寝起きはコレだから…!!
先程の余裕さが微塵も感じられず、静雄は完璧に毒気が抜かれていた。
「あー…もうなんか、久しぶりですね、平和島静雄サン」
顔を覆いながら臨也がボソボソと呟く。覗く耳は僅かに赤い。
「おう久しぶりだな、池袋は平和だったぜ。手前が居ねえおかげで」
「…そ、良かったじゃん。じゃ、なんで来たの。俺未だ何もやってないけど」
「未だってのが聞き捨てなんねえ」
「…ちっちゃい男は嫌われるよ」
あぁ、あっちは大きいらしいけどね?
下世話な内容に思わず臨也の頭に拳骨を落とす。
「いったぁっ!」
「手加減はしてやった」
「…うざ…」
「手前がな」



「安眠妨害したお詫びに何か作ってよ、それでチャラにしたげる」
伸びをしながら臨也が言う。
「なんで俺が手前なんかに。てかプラマイ0って…」
「扉代」
「………台所借りるからな」
「うん、壊さないでねー」
羽織をソファの背凭れに掛けて腕捲りをしながら台所に向かった。後ろ姿を眺めながら、デスクに頬杖をついて呟く。


「悔しいけど、今日は津軽とサイケ一緒に居ても文句言わないであげる」
…ありがと
小さく呟いたそれは誰に聞かせるわけでもない。


料理が出来上がるのをデスクに突っ伏して待ちながら言う。
「…なんでかテンション上がってきてんだよねー…そんなにシズちゃんに会いたかった…?ありえない…ほんと。それも扉壊しても起きないなんて、どんだけ…」
疲れてるにしたってあのシズちゃんが来たのに!安心してる!?ないないない。
突っ伏した腕の中から顔だけ起こして台所に立つ静雄に少し視線を移した。

(かっこい…くない、から。マシ、なだけで)

普段会えば壮絶な町を巻き込んだ喧嘩してるのは変わらないが、津軽とサイケのマスターになってから、白と黒しかなかった2人の間に今の時間のようなグレーゾーンが出来た。
それを悪くない、と思ってるのは事実だ。でも。




『素直になれば』
津軽がいつもサイケを腰にくっつけながら言うのを思い出す。
『待って、まだ』
そう言いながら、サイケをひっぺがすのが常だ。



(待って、まだ、認めたくないんだよ。認められないんだ)
認めたら、全人類を公平に、平等に愛してると豪語してる自分が崩れてしまう。
それは、想像がついていないから怖い。



「おら、出来たぞ」
勝手に冷蔵庫のもん使ったからな。
静雄が湯気を上げながら2つの皿にチャーハンを乗せてやってきた。
「うん、シズちゃんのくせに美味しいんだよね…むかつくー」
「要らねえんだな」
「ちょ、食べるよバカ」
「ほんとうぜえな…あ、こっちでいいよな」
ソファの近くのローテーブルに皿を置く。芳ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、食欲が誘われる。
「早く来やがれ」
「なんで偉そうなの…」
口を尖らせながらも、椅子から腰を上げてソファに向かう足取りは軽い。





臆病者の恋愛事情
(もうちょっと、待って)
このまま、を甘受させて。










俺得なシズイザ+つがサイです。
つがサイもシズイザもくっついてませんが、つがサイは目に見えてラブラブしてて、なんだかもやもやシズイザ。
シズイザは両片想いですが、津軽とサイケをキッカケに少しずつ少しずつ歩み寄る、はず。



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