「げ、全く埋まらない…なにこれ酷い!バイトこのやろ、揃いに揃って×つけやがってぇー!」
…―――――月に一度のシフトミーティングを前に既に行き詰まっていた。
各セクションのフルタイマー(FT)=セクションリーダー達がバイトとパートのシフト希望表を見ながらシフトを組み込んでいく作業の途中、12月23日から26日までガッツリ×がついている希望表をもう何枚見たことか。
今年はクリスマスイヴを挟んで三連休って世の恋人達には優しい日程で。
だけどここ、映画館にとっては死ぬほど忙しい3日間だって思うんだけど。
先週セクションマネージャーである篤志さんと一緒に決めたシフトの軸になるシフト線の数とシフトに入れる人数が違いすぎて溜息がこぼれた。
「ボックスも×ばっか?」
同じようにフロアのセクションリーダーであるアキラくんが私と同じような顔でシフトを作っている。
溜息をついた私に苦い顔で声をかけてきた。
「もー見てこれ!酷いの…」
「どれどれ?」
私のデスクに片肘かけてアキラくんがシートを覗き込む。
真横にアキラくんがきて、なんだろ、すげぇドキドキする!
なんかいい匂いするし…チラっとアキラくんを見るとド至近距離で目が合った。
ほんの数秒見つめ合った私たち…
「…俺も3日間超ラスだなー。サクラも一緒に遅番入る?」
「…え?」
「デートしよっか?どれか1日…」
「え、アキラくん?」
「俺結構マジで言ってる」
それは、初めて見せた感情で。
アキラくんはフロア(主にシネマ入口、劇場内)のFTで、みんなを優しくでも時に厳しく引っ張っているしっかり者だった。
いつだって真面目で頼りになって…でも輪の中心にいるような人気者で…
え、そのアキラくんが、私!?
「…本気?」
「うん。ずっと見てた…」
知らなかった…というよりは、全く気づかなかった。
だって私もかっこいいから意識しないようにしていた…
「こーら、ここは合コンじゃないぞ!」
パコンってアキラくんの頭に軽いゲンコツ。
早番シフトの篤志さんが私達の会話を聞いていたのか、ちょっと困ったように笑った。
途端にカァーって赤くなる。
だけど次の瞬間ジーっとトランシーバーが鳴った。
【マネージャーとれますか?フロア入口小林です】
それはシネマ入口にいるバイトの小林くんからの呼び出しで。
カチッとシーバーを押して篤志さんが答える。
「佐藤です!どうした?」
【12時30分から2名ヘルプお願いできますか?】
時計の針は5分前。
エンド時間が重なって動員数とスタッフ人数が比例しなくてフロア清掃が足りない。
「自分行きます!」
言ったのはアキラくん。
シフト作成している私達は基本シフト線から浮いているから通常業務はしなくていい。
だけどそう言ったアキラくんに、篤志さんはシフトのできを覗いてニコっと微笑んだ。
「じゃあ頼む!俺も一緒に行くよ」
「いえ、」
そう言ったアキラくんの視線は私に飛んできていて…―――え?私?
キョトンと見つめ返すと「サクラ一緒に行こう!篤志さん行ってきます!」立ち上がって私の手を取るとアキラくんは「おい、こら!」篤志さんの返事を待たずに私をオフィスから連れ出した。
超強引に!
コリドール(フロア)は人で溢れかえっていて、そんな中を手を繋いですり抜けてシネマ入口に到着した。
「あ、アキラさんすいません。サクラちゃんも!」
シフト作成している私達に律儀に頭を下げる直己くんに「篤志さんからシーバーきた?」そんな確認をするアキラくん。
「きましたよ、シフト作成中のFT2人行かせるから終わったらすぐに返せ!って。すいませんほんと」
顔を見合わせてちょっと笑う。
何だか恥ずかしいけど、連れ出されたことが楽しくて正直ドキドキしたんだ。
「了解!8番でいいの?」
一番奥のスクリーンに視線を向けるアキラくんに直己くんは「7番2人でお願いします!」そう言ったんだ。
…まさかの、2人きり。
アキラくんは嬉しそうに笑って「了解!」スッと歩き出した。
その後ろをついていく私にフロアスタッフ達が挨拶をしてくる。
「おいお前ら、三連休出ろよなー!」
そう言うアキラくんに学生バイトのみんなは苦笑い。
まぁ大学生のクリスマスは確かに重要だよね。
カレカノがいなくても友達とどっか行ったり。
社会人には許されない領域だし。
その点私達社会人は仕事優先だから…
クリスマスのどれか、アキラくんと過ごすことを想像して、清掃にほとんど集中できなかった。