■ 嵐の前の静けさ1
カチカチカチカチ。
目を閉じるとよりいっそう聞こえる色んな音。
寒いこの部屋の暖房がボー…ボー…って動く音とか。
ソファーがギシギシ軋む音とか。
服が擦れ合う音とか。
「奈々…」
低くて甘い吐息混じりのタカヒロの声に目を開けると、あたしに覆いかぶさったタカヒロがこっちを見ている。
ソファーの上で抱き合ったままのあたし達。
長めのタカヒロの黄色に近い前髪が目にかかっていて、目元が一段と色っぽい。
薄い唇から発っせられるあたしの名前がとても愛しくて。
伸ばした手をそっとタカヒロの頬に触れる。
一瞬ピクッと頬をさせるタカヒロは目を細めて又、あたしの唇に視線を移した。
同時にタカヒロの重みがあたしに掛かって、大きく息を吸い込んだ。
こうやってタカヒロと抱き合っていると、何もかもが幸せな気持ちになる。
この世の幸せを独り占めした気分にさえ。
唇から移動するタカヒロの舌が、あたしの首筋を伝っていく。
見える景色は天井で、あたしはタカヒロの頭を抱えるように抱きしめた。