オレの女


「よかった、じゃあ中入ろう!」


ニッコリ微笑んであたしにまた大きな手を差し出した。

手を握ってしまう前に言わなきゃいけないのに、あたしを優しく見つめる寺辻くんにどうしてか胸がドキドキした。


「あの、中に何が…」

「え?ゲーセン行ったことない?」

「ない」

「マジ?すげぇ新鮮…可愛い…」

「えっ?!」


…可愛いって言われたの、あたし今…?

専らそんな甘い台詞を言われ慣れていないあたしは、それだけで顔が熱くなってしまう。


「二度も言わせるなんて、確信犯だね?」

「なんっ…」

「可愛いよ、ユヅキちゃん」

「え…」

「顔真っ赤!」


あたしの腕を引いて笑いながらゲーセンの中に入っていく寺辻くん。

シューって風船から空気が漏れるみたいに顔から湯気が出るんじゃないかってあたしは、ただ黙ってカレの後を着いていくしかできなかった。


縄張りだっていうゲーセンの中は、他校の生徒も沢山いて、後輩らしき人も沢山で…あたしを引っ張る寺辻くんに向かって、ほとんどの人がサッと道を開けて頭を下げたんだ。

それからあたしの顔を覗き見するみたいにチラリと見て…

奥にあったのは黒い大きなソファーが三つ。

ゲーセンの中に何でソファー?

思ったあたしの目に飛び込んできたのは、不良4人で。


「おお、ケンチ!とユヅキ!」


金髪の八木将吉があたし達に気づいてそんな言葉。

って、何、なんで呼び捨て!?


「後輩たちに伝達しとこうと思って、オレの女…」


グイっと肩に腕を回されて…――――「ええ、あたしぃっ?」…叫んでしまった。


「あ、そっか!女は危険だからなぁ」


そう言ったのはリーダーの黒木啓司で…。


「おい、集合!」


哲也くんの声にゲーセン内にいた学生たちが集まってきた。

こここここ、怖いんだけどっ!!

みんな髪の色が変だし…眉毛ない人もいるよぉ…

ユナァ―――!!助けてっ!!


「ユヅキ。オレの女。顔覚えて何かあったら絶対護るように」


寺辻くんがそう言うと、「ハイッ!」って声があちこちから上がって…。

なんて世界なんだろうか…と思わずにはいられなくて…


「怖いの?」


哲也くんがあたしにそう聞いた。

こんな形で哲也くんと仲良くなるなんて…―――複雑だ。



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