戦闘態勢

「寺辻くん」


そう声を出すつもりが、不意に腕を引き寄せられてあたしはカレの背中に完全に隠された。

あたし達の前、たぶんこれは先輩?なんだろうか。

物凄いガンを飛ばしていて、その手には黄金バッドが握られていて…


「よう、ケンチ!」


そんなガラガラな声を飛ばす。


「なんっすか、先輩」


動じることなくそう言う寺辻くんからは、戦闘意欲が見え隠れしているようで…


「お前んとこの将吉に用があんだよ、そこどけよ」


そう言った瞬間に、その先輩と目が合った。

すぐにニヤリと薄気味悪い笑みを浮かべて…


「女連れとはいい身分じゃねぇか」

「女関係ねぇだろっ!」


ドスの聞いたド低い声がした。

まるで寺辻くんじゃないような、そんな声だった。


「ユヅキちゃん悪い、ゲーセンの中入って。ここじゃ危ないから」

「でも、寺辻くん一人じゃ…」

「オレは大丈夫だって。こう見えても強いんだよ、結構。あの先輩等口だけだしね! けどユヅキちゃんに何かあったらオレ自分を許せねぇ…だから頼む、中入れっ!!」


最後は命令口調だった。

でも、あたしを守ろうとしてくれているのが物凄く伝わって…

だから「うん」そう言って、あたしが離れようとした瞬間、寺辻くんがチラっと後ろを振り返って…

腕ごと抱き寄せられると、頬に軽く唇が触れた。


「続きは後でな」


耳元を唇が掠めてそんな甘い言葉を残した。


「走れ!」


でも、ドキドキする胸を手でギュウって押さえて、あたしはカレの言葉通りゲーセンの中に入って、一番奥まで走った。

さっきと何も変わらないままそこに存在しているsecondメンバー。

肩でゼエゼエ呼吸をしているあたしを、みんなポカンと口を開けて見ている。


「ケンチは?」

「あのっ、八木くん!」


あたしに呼ばれて、将吉の大きな目があたしを捕えた。

ドキっとするくらい眼力の強いその目に、若干怯みそうになったものの、ここで引けないってあたしは将吉の前まで駆け寄った。


「ケンチに飽きたの? オレに相手して欲しい?」


挑発するようなその台詞に、少々苛つきながらも「違う!」って叫んだ。



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