Sweet Honey | ナノ

プロローグ

「臣くん、何考えてるのか分からない。本当に私のこと好きなの?」


―――でた、この台詞。

百発百中同じ台詞でフラれる。

一体俺が何したってんだろ。

毎回この台詞を浴びせられる俺の気持ち考えたことある?

あるわけねぇか。

そもそも自分を好きか分かんねぇって、好きじゃなきゃ付き合ってねぇだろ。

気持ちが離れたならすぐに別れるだろ。

え、そんなことも分かんねぇの?


目の前でメソメソしている間もなく「別れよう」を告げるであろう彼女を見て大きな溜息すら漏れそうだ。


「何がわかんねぇ?」


とりあえずの引き止め。

理由ぐらい教えろ。

言い返した俺を見て、不審な目で見返す彼女。

え、俺変なこと言った?

そんな睨まれる意味がよくわかんねぇーし。

だからか、彼女は伏せていた目を大きく見開いてアイスティーのグラスをグッと握って立ち上がったんだ。

え…―――――?

そう思ったのは一瞬で。

バシャッ!!

はあっー!?

頭の上から垂れてくる甘ったるいアイスティーに、思わず俺は彼女を睨みつけた。

いやこれ怒ってもいいっしょ。

理由も言わねぇ、いきなりアイスティーぶっかける。

俺よく我慢したよね?


「何しやがる」


出た声はど低くて、彼女がビクッと肩を震わせた。

けどもう引けないわけで。


「もうついていけない。別れてくださいっ!!…さようならっ!!!」


わざとなのか、大声で店内に聞こえる声をあげた彼女は泣きながら出て行ったんだ。

ダンっ!!!

やり場のない気持ちを込めて机を叩く。

なんだこの惨めな男は。


「追いかけなくていいんですか?」


不意にそう声をかけられて。


「え?」

「今追いかけないと終わっちゃう。追いかけてほしいって彼女の背中に書いてあったの見えなかった?」

「いやなんも見えねぇけど」

「…たぶんそこだと思う。理由…」

「え?」


店員の女はタオルを置いて静かにカウンターに戻った。

はっ!?

こいつアイツの気持ち分かんの?

タオルで濡れた顔を拭きながら店員を見たけど一度もこっちを振り返ることなんてなかった。


―――それが、俺と美月の出逢い。


- 1 -

prev / next

TOP