▽ 不意打ち
「お休みって土日?」
「おん。土日休みやで。ユヅキちゃんは?」
「私も土日休み。よかったぁいっぱいデートできるね!」
指を絡めながら二人で歩く帰り道。
隣を歩くユヅキちゃんは俺の腕に抱きつくみたいに反対の手も絡めていて。
たかが休みの確認ってだけなんに、なんやめちゃめちゃ嬉しく思う。
「デート憧れるわぁー。どんなとこ行くん?」
「どこでも!健二郎くん釣りするんだよね?それ私もできる?」
「めちゃめちゃおもろいで釣り!教える。一緒に行きたい」
釣りに食いついてくれた子も今までどうにもおらんかった。
「うんっ!楽しみっ」
ニコって笑顔を見せたユヅキちゃんに俺も笑顔を返す…こんな関係めっちゃ理想やん!
でも、それまで笑顔やったユヅキちゃんが、俺のマンションのエントランスについた途端真顔になった。
視線の先は…「おお、今帰りか?」…たまたま同じマンションに住んでる同じ会社の女で。
俺とユヅキちゃんを怪訝に見ている。
「うん…」
キュっとユヅキちゃんの俺を握る手に力が入る。
チラっとユヅキちゃんに視線を移すとほんの一瞬俺を見た後、女に視線をずらした。
「こんばんは」
可愛い声でそう言う。
声をかけられて吃驚した顔で「こんばんは…」そう返す会社の女。
「健二郎がお世話になってます」
それからまさかのそんな言葉に、内心むっちゃ小躍りで。
なんや俺の奥さんみたいやんなぁ〜なんてニヤついとったら「特にお世話はしてませんけどね…」そんな風に返されて…。
「行こう健ちゃん…」
健ちゃん呼びにまたテンションがあがる。
「おん、じゃあな」
ユヅキちゃんの腕が強く俺を引いて、エレベーターのボタンを押すとコテっと肩に頭を乗せる。
その仕草がむっちゃ可愛くて「ユヅキちゃん…」小さく名前を呼んだら「ちきしょう…」悔しそうな声が返ってきて。
「え?」
どないしたん!?…そう聞こうと思った俺の声はいとも簡単にユヅキちゃんに遮られた。
エレベーターに乗って扉が閉まる前に背伸びをして俺にチュって小さなキスを落とすユヅキちゃんに全身の血が唇に集中するかの如く、カアーっと真っ赤になっていくのが分かった。