もどかしい

架空の恋人に嫉妬なんてしないけど、やっぱり隆二と付き合っていることがバレたらおじさん達に色んな目で見られるなぁ〜こりゃ…。

なんて冷静に思った。

それは隆二も一緒だったみたいで、「ユヅキさんの彼氏に怒られそうなんで自分そろそろ現場出ますね」そう言って私の腕をそっと離した。

自分のデスクに戻ってPCをカチっと開いて今日の行先を確認する。

チラっと視線を私に移して「ユヅキさん」小さく呼んだ。


「なに?」

「行先書いといてください!」


そう言って私の腕を引いて自分のPC画面を見せて…。

真横に隆二の顔があってドキンと胸が高鳴った。

そんな私の耳元に顔を寄せてまた耳元で囁くんだ。


「今日早く帰れそうだからご飯食いに行こう。俺が帰るまで待てる?」


視線を横に移すと、至近距離で隆二と目が合う。

優しい瞳が私を見て嬉しそうに微笑んでいて、そんな彼の笑顔を見るだけで私までキュンっとしてしまう。

平日は普通に家に帰るつもりだったから急な展開に嬉しくて固まっていたら、隆二がキョトンと私の髪を触った。


「あれ?用事だった?」

「え、ない。今日はダメだと思ってたから嬉しいなぁ〜って…」


そんな素直な言葉も隆二相手だと出ちゃうわけで。

私の言葉にやっぱり目を細めて微笑むんだ。


「可愛いなぁもう。やっぱりイケメンの彼氏から奪っちゃいたいなぁ俺」


…わざと言ってるんだろうけど、可笑しくて。

隆二の手が私に触れたがっているのが伝わってもどかしい。

私もこの期に及んで隆二に触れたい気持ちが大きくて。

会社の人達にバレちゃいけないって思っているのに、触れたい気持ちは募る一方で。


「早く帰ってきてね?」


私の言葉に隆二がゴクっと唾を飲み込む音がして、困ったように眉毛を下げて唇をムウって突き出した。


「何か俺、わりと自信ないかも…」

「え?」

「ユヅキのこと隠す自信…。バレちゃったらごめんね!」


ニコって笑って隆二は椅子から立ち上がった。


「これご馳走様!」


そう言って私のいれたお茶を飲み干す隆二は空になった湯呑をそっと私に差し出した。


「うん、頑張って!」

「はい」


隆二の湯呑を受け取る時にそっと手が触れ合って、目が合う。

仕事だって分かっているけど、甘い時間が素敵すぎて離れたくない…そんなことを思ってしまう。

ポンって私の背中を叩いて隆二は元気よく現場へ向かって行った。


「いってらっしゃい」


その背中に無言で呟いたんだ。




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