ピンチヒッター




隆二がいなくなってまだ5分とたっていないというのに校舎内は真っ暗で。

電気をつけているのに空が暗いせいで、どよんとした空気をまとっている。

雨が降っているせいでジメっとしていて気分も暗くなりそう。


「…隆二…早く戻ってきて…」


大丈夫!なんて言った手前、自分から隆二に逢いに行くこともできなくって。

スマホを握り締めて時計の秒針がカチカチ鳴る中、ただ一心に隆二を思っていた。

そんなあたしの耳に足音が聞こえたのはその少し後で。

暗い廊下をだるそうに歩くその音にすらビクビクする。

誰…?

そう思った時だった。

ガラって教室のドアが開いて。


「ラッキー!奈々ちゃんに逢えるなんて!」


ニッコリと微笑んだ岩ちゃんが教室に入ってきた。

ホッと息をつくあたしを見て岩ちゃんはほんの少し首を傾げる。


「吃驚した、岩ちゃんまだいたんだ…」


そう言ったあたしの声は心なしか震えていて。

だからかもしれない、岩ちゃんがあたしの側に近寄ってきて、腕を掴んだんだ。


「もしかして、雷苦手?」


真っ直ぐにあたしを見つめてそう聞く岩ちゃん。

できれば岩ちゃんに頼りたくはない。

でも今ここには岩ちゃんしかいなくて。

どんどん大きくなっていく雷の音が本当は怖くてたまらなくて…

コクって小さく頷くと「やっぱり…」そう言って岩ちゃんはあたしの隣の直人くんの席に座ったんだ。


「隆二でも待ってんの?」

「うん。先生に呼ばれてて…」

「じゃあそれまで俺がここにいるよ。大丈夫、無理やりしないから!」


ニカって歯を見せて笑う岩ちゃん。

いつも屈託なく笑う明るい岩ちゃんの笑顔に今ほど救われたことはなくて。


「ありがとう…」


あたしの言葉に「ははっ」って乾いた笑いを見せた。


こうして喋ってみると岩ちゃんは普通で。

入り方がこんなんじゃなかったら、もっといい付き合いができたんじゃないかって。


「岩ちゃんモテルでしょ…」


話の流れでそう言ったあたしに「ん〜まぁね〜」なんて軽く答えちゃって。

思わずプッて吹き出すあたしを変な顔で見ている。


「何で笑うの?」

「あは、ごめん。だってこーいう時って普通”そんなことないよ”って言わない?」

「だってそこそこモテルのは事実だもん俺!嘘言う必要ないっしょ!」


そう言ってあたしを見つめる岩ちゃんの瞳はカラーコンタクトが入っているのかビー玉みたいに見えてキラキラしている。




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