冷静な健二郎くん
それをギリギリ止めたのはエリーで。
「隆二よせって!」
後ろから暴れる隆二を羽交い絞めにした。
臣も隆二も、直人くんじゃなくて岩ちゃんを物凄い睨んでいる。
でも岩ちゃんは飄々としていて。
キスをバラされたあたしは走ってトイレに駆け込んだ。
こんな時、ゆきみが傍にいてくれたら…そう思わずにはいられない。
廊下で怒鳴りつける臣と隆二の声がしたけど、あたしは耳を塞いで個室の中でホッとしたのかポロっと涙が零れた。
ゴシゴシって手で拭っても止まらなくて。
「奈々ちゃん、出てきぃや…」
そんな声がしたのはすぐで。
女子トイレまで迎えに来てくれたんであろうゆきみのクラスの健二郎くん。
関西弁の高音があたしを呼んでくれる。
「あっち行って」
そう言うけど「ええから出てきて…」そう言って聞いてくれない。
もうどうしたらいいのかなんて分からないけど、授業前の予鈴が校舎内に鳴り響く音が聞こえて。
戻らないと…咄嗟にそう思った。
カタンってドアを開けると、やっぱりな健二郎くんがそこに立っていて。
「全部見とってん俺も…今の。あいつらだいぶ興奮しとって…岩ちゃんにはきつく言うとくから。戻ろ…」
あたしの腕を掴んで教室まで運んでくれる健二郎くん。
「離せよ、健二郎!」
臣があたしを見てそう言う。
危うく二人とも岩ちゃんと乱闘寸前で今だに直己くんとエリーに抑えられていた。
「あかんやろ、臣ちゃん!そう興奮すんなって、奈々ちゃん怪我でもしたらそれこそ自分のこと呪うで、お前ら…もっと冷静になれや」
ピシャリと健二郎くんに言われて、大きく肩で呼吸を繰り返す二人は、ようやく直己くんとエリーから解放された。
すぐにあたしの所にきてギュっと抱きしめる隆二。
フワっと隆二の香りを浴びてあたしの心も落ち着きを取り戻す。
「奈々ごめんね…」
「隆二のせいじゃないよ」
「もう俺、ボイトレやめる。奈々のこと一人にしないよ」
「そんなのダメだよ。隆二は夢を追わなきゃ。あたしの為に諦めるなんてこと絶対に許さない!」
「そんなのより奈々のが大事だよ俺マジで…」
隆二がギュって強くあたしを胸に閉じ込めて。
それを見ていた臣が静かにあたし達から離れた。
「ゆきみにちゃんと謝れよ直人…」
そう言って臣は岩ちゃんの横を通り過ぎて7組の方へと歩いて行ったんだ。
小さくなる臣の後ろ姿に涙が零れそうな、そんな気持ちになった。
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