俺は答えない。それを肯定ととったそいつは甘く顔を緩ませた。
「では早速本題ね。まず、君は旭山貢鳴君でいいかな」
「…ああ」

 俺の名を何故知ってるのだとかは別段気にならない。こいつは俺に用があるようだし、それならば俺の名前を知っているのは大したことではないからな。

「単刀直入に言うと、君はもう死んでいるんだ。二年前にね」
「……は?」

 ノアイとかいう奴の言葉に目を見開く。何を馬鹿なことを言ってるんだ。今こうして俺は自分の足で立っている。……ああ、いや、これは夢だったな。全く、変な夢だ。胸糞悪い野郎の顔も見たくないし、早く起きろよ俺。

「覚えてない? 自分の父親にね、撃たれたんだよ」
「親父に? ふん、馬鹿言え。親父は――……っ、!」

 頭がズギズキとする。警告。目がチカチカして焦点が合わない。真っ赤に染まる。「死ね」それを言ったのは誰だ――? 親父の優しさに満ちた顔が無表情に変わる。親父は手にしていた銃を、俺に。
 いや、待て。違う。あいつがあんな真似を出来るわけがないんだ。俺は生きている、こうして立っている。死んでなどいない。おれはいきている。しんでなんかいないんだ。
 ぱん、と泡が弾けたような音が脳内で響いた。

「憎いかい」「苦しいかい」「悲しいかい」

 脳が告げる。こいつは危険だ――。

「君にチャンスをあげるよ」

 悪魔は笑った。