悪魔の囁きに捕らわれてしまった俺は、ごくりと喉を鳴らした。

「実は君だけではないんだ、死んだ人間っていうのは。そうだなあ、厳密にいえばちょっと違うんだけど、俺もそうだし雫と滴――あの二つ首の子もそうだ。この世の中っていうのは死者の抱える憎悪、未練、そういうので蔓延っていてね。それを管理してるのは表組織。自分で言うのもなんだけど、それを悪用してるのが俺たち裏組織だよ」
「……悪用だと?」
「うーん、悪用って言うか、利用かな? 俺は愉しいことが大好きでね、表組織よりも先に魂を引き取っちゃって、集めるんだ。表と裏は相容れない関係で、一度引き取った魂は、もう奪うことは出来ないんだよ。表組織のあの悔しそうな顔も見飽きたところだし、俺はね、賭けてみることにしてみたんだ」

 ノアイはコインを指先で回す。クルクルと回る銀色は見ていると何だか目に痛くて視線を外した。コインを弾き、空中でそれを手に握ったそいつは、にこりと笑う。

「どれだけ俺を愉しませてくれるのかなってね。簡単にいっちゃゲームだよ。終わるときは勝ったときか、魂が尽きるまで。魂が尽きるときってのはルール違反だったり負けたりして…二度目の死になるね。賞品は金か命」
「……はあ? んなの、普通命選ぶだろ」

 っつーか金選んでも生き返らなきゃ意味がねえよ。

「そう、だからこう条件付けた。金を選んだ人は金は有り余るほど与える。だけど命の保証はできない。五年経ってパタリと逝くかもしれないし、はたまた三十年経ってから病に倒れるかもしれない。一方で命を選んだ人は命は保証出来るけど金運はないに等しくなる。金が手にはいるまで浮浪者生活になるかもね。それは四十年後かもしれない」
「だが、それにしたってやっぱり――…」
「もー、人の話は最後まで聞いてよ? 確かに、やっぱり命の方が大きい。てことで、命を選んだ人には、漏れなく恋愛できない体をプレゼントでーす」

 パチパチと手を叩くそいつの声は、凄く楽しそうだったが、それに反して表情は酷く詰まらなそうだった。
 恋愛"できない"。それは人を好きになれなくなるということだろうか? それならまだ最初からできなかった、と割り切れば大丈夫な気がするが。そういうのが嫌だって奴もいるんだろうし、まあこれなら、等しいとは言えないがそれなりになっている。

「で、何をするのかというとね――」
「おい、待て」