片言になった上島を放っておいて、周りに誰も居ないことを確認した俺は煙草を取り出す。銜えて火をつけようとライターと取りだそうとしたところで上島に奪われた。

「お前何やってんだァー!」
「煙草に決まってるでしょう? ライター返して頂戴、ト、シ、ちゃん」
「いっでぇ! ちょっ、踵めり込んでる!」
「ほら早く返せむっつり」
「むむむむっつりじゃねえし!」

 いやそこら辺で赤くなるとこが悪いんだろ。説得力ねえ。
 ライターを握って放さない上島の足をグリグリと踵で潰せば痛みに涙目になる上島。痛いなら返せよライター。

「つーか保険医だろお前!」
「え?」
「え? じゃねえよ。何きょとんってしてんの可愛いんだけど」
「きめぇ、近付くな」

 頬を赤く染めながらふざけたことを言う上島にドン引きな俺。それに沈んだ表情になった奴の顔を一瞥して溜息を吐くと、銜えていた煙草を仕方なく箱に戻した。満足した上島はライターを返してくる。立ち直り早いな相変わらず。

「で、酒代にお前に逆立ちしてもらいながら体育館に連れて行って貰えって言われたんだが」
「逆立ちとか無理すぎるだろ。つか酒代先生がんなこと言うわけねえじゃん!」
「ふざけんな死ね」
「何故!?」
「……お前ってホント面白えよな」

 直ぐに涙目になる上島に笑みを浮かべる。その直後、上島の体が急に震えだした。おい大丈夫かよ。尋常じゃないほど震えてんだけど。

「ぎゃあぁぁああ可愛いいぃぃ!」
「死ねよお前」

 少しでも心配した自分が馬鹿だった。

「つか早く案内しろって」
「あー、そうだな。もうそろそろいい時間だし」

 だらしない笑顔を浮かべる上島の後に続いて保健室を出る。廊下の開いた窓から温風が体を撫でる。桜が綺麗だ。――ミカも桜が好きだったな。それにミカ自身も桜のように綺麗で儚かった。

 「峻也?」少し前にいる上島がいつのまにか止まって俺を振り返った。