「それにしても、人があまりいないわね」
「もう皆体育館に集まってる頃だろうからなあ」
「成程ねえ…」

 まだ始業式始まるまで時間があると思うんだけど、もう集まるのか。そういえば、この学園には不良という不良が集められたクラスがあるらしいが、そいつらもちゃんと参加するのだろうか? 曲がりなりにも御曹司だろうし。

「稔ちゃん、素行の悪い生徒もちゃんと参加するの?」
「いや、……どうだろうな。参加する奴もいれば、参加しない奴もいるかな。まあ、殆どは参加しないけど」
「そうなの」

 駄目な御曹司だな。親がちゃんと面倒見ていないからこんなことになるんじゃないか。指導し甲斐がありそうだけど、この喋り方だと馬鹿にされるだろうな。別にいいけど、うっかり素が出そうで怖い。取り敢えず関わりを持たないようにしよう。……あ、でも不良とか保健室で屯するかもしれないな。怪我人は歓迎だけど、サボりは許さないぜ、俺。

「峻也、峻也。凄いあくどい顔してるぞ、お前」
「やだわあ。あくどい顔なんて、失礼ね」
「……なあ、やっぱりやめね?」
「は?」
「…俺は今のも好きだけど、やっぱり素はもっと…いや、なんでもない。……考えたら、その方が俺にとっても都合がいいか…?」
「意味分からないんだけど」
「いや、さっきのはなしにしてくれ。お前はそのままでいてくれ!」

 ……結局何が言いたかったんだよお前。俺の眉を顰めた顔を見て、上島が繕うように笑った。

「あー! 上島ー!」

 後方から声が掛けられ、それは人のいない廊下に響いた。上島が立ち止まり、俺も自然と足を止めた。後ろを振り向くと、指定の制服を着た金髪に小さい背丈で、猫目の可愛らしい外見の生徒――あれ? 生徒?

「塚田!? お前何でここに…。あと先生を付けろ先生を!」
「いやあ、上島は何か親近感沸くっていうか、友達みたいな感じだし。つーか、あはは、寝坊したわ」
「俺嘗められてね!? しかも寝坊って、お前なぁ…」
「上島も今から行くところだろ? 一緒に行こうぜ」
「それは別にいいが…」

 濁すように言って上島が俺をチラリと見る。釣られてその塚田という生徒も俺を見た。初めて視界に入ったようで、驚きに目を見開かれる。

「ええええ! 上島、この男前な方は!? おおおお俺塚田仁志と申します!」
「俺との態度の差が酷い! えーと、こいつは、新しい保険医だ」
「どうも初めまして。私は閂峻也よ」
「オネエの方ですか!? す、素敵です!」

 手を両手でがっしりと握られて、俺は吃驚する。いや、引かないどころか素敵ってのも驚いたけど…元気だな、こいつ。顔が引き攣りそうになるのを抑えて、何とか有り難うと言葉を紡ぐ。

「おいおい、落ち着けよ塚田。峻也が困ってるだろ」
「何で上島そんなに閂先生に馴れ馴れしいの?」
「だって、ダチだからな。な、峻也」

 言いながらも、上島が不安そうに俺を見つめる。正直、俺は昔上島と上辺でしか付き合ってなかったからな。でも、今は上島がいたから俺は生きてるんだから。充分俺にとって大切な存在であることは違いないんだ。俺は深い笑みを浮かべて答える。

「そうね」

 上島が目を見開き、そして破顔した。


12/01/04