話が脱線したな。えーっと、俺は入院してから毎日見舞いに来る奴――勿論だが上島だ。上島から教師になりたいということ聞いた。最初はうぜえと思っていたが、俺が人としての感性を取り戻したのがあいつのお陰っつーのは間違いなく事実だし、あいつの輝きに満ちた表情に俺も教師に憧れた。…つーか、夢があることに羨ましく思って俺も遅くも大学に入学し、先に教員免許を取ったあいつを悔しくも見送って勉学を励んだ。そして今年、漸く保険医の資格を取れた俺は喜びに満ちていた。そしてそれをあいつに伝えると、あいつも自分のように喜び、提案を持ちかけてきた。お前なら絶対受かるからここ受けてみないか。それがここだ。あいつを信じた俺も大概阿呆だった…。

「閂先生?」
「あ、ごめんなさいねー。ちょっと酒代先生の綺麗な顔にうっとりしていたわ」
「……はあ」

 やる気のない返事を返す酒代はちょっと顔が引き攣っている。無表情の初めての変化だ。いい意味か悪い意味かと問われたら間違いなく悪い意味でだけど。まあ無理はないわな。こんな背高くて顔も男らしくごつい奴にカマ口調でうっとりとか言われたら誰でも――いや、例外はいるけど普通は引くわ。
 こういうとナルシストっぽいと思われるかもしれないが、俺の顔はモデル界に通用する程度には男前な顔立ちをしている。一時期騒がれたことだってあるし学校では割と告られたし。俺はぶっちゃけミカ以外どうでもいいっつーか、皆芋に見えてたから全部断ったけど。

「ではこれから始業式が始まるので準備してくださいね」
「ええ。これから美形が沢山いるところに行くのね…。ああ楽しみだわー!」
「俺はこれで。上島先生とお知り合いのようなので先生が来たら体育館に連れて行って貰うように頼んでみたらどうですか?」

 お、流した。キモイっつのは分かるけどそんなあからさまに引きましたって顔すんなよ。俺ホモじゃねえし。ホモじゃねえし。…意味もなく二回言っちまったじゃねえか。
 
「あ、峻也! お前もう来てたのかー」
「あなたが遅いんじゃないかしら」
「……やっぱそれでいくのか」
「何か言ったかしら?」
「ナンデモゴザイマセン」