私立男子譚柳橋ヶ丘学園。全寮制の進学校であり、中高一貫のそこには様々なジャンルの大手企業子息が数多通っている。例えばそれは世界流通の有名な菓子店であったり、有名スポーツ店だったり。お坊ちゃまたちが通う高校となれば必然的に学園は煌びやかなものとなる。一般的な高校とは違い教室内には埃など見当たらない。机だって新品そのもの。廊下には偉大な画家の絵が沢山飾られてあったり絨毯が敷かれてあったり。食堂には割烹着を着ているオバチャンなんてものはいなくて三つ星レストランのシェフなど一流の者を雇っている。出てくる日常的な食べ物といえばトリュフやフォアグラなどの五大珍味を含めた高級食材をふんだんに使った料理だ。
 校舎をでると噴水や美しい草花。囁かな小鳥の囀りさえもこの空間そのものを引き立てている。兎に角校舎外にも無駄に華やかさを放っていて、迷うほどに広い。寮も高級ホテルと見間違うほどの綺麗さがある。ロビーの天井に提げられた煌々と光るシャンデリアが生徒たちを迎える。
 そもそも何故この男子校にそのような企業の跡継ぎを挙って入れたかというと、下手に共学に入れて低俗の企業の娘やらとんでもない女やらに現を抜かすよりはと安全な男子校へと放ったのである。全寮制なので女と接する機会もない。誰もが思い付いたこの案が予想の斜め上をいって裏目にでることを誰が思い付こうか。忘れないで欲しいことは、思春期の男子たちの日に日に募る性的欲求の捌け口だ。成長するにおいて誰もが通る道。当然それは一般的男子と変わらず、保険の授業でも習ったことだ。周りを見ても男しかいない。どう足掻いても女と接することができない。まさしく背水の陣といったところで、崖っぷちに立たされた男子たちの理性はとんでもない方向へと飛び去った。「もうこの際男でも構わない」誰かが口にしたこの言葉。確かにと呟いた男子たち――いや寧ろ飢えに飢えた獣たちは欲望を見事放出できる娯楽を覚えたのだった。それを露知らず子息たちに希望と期待を抱いている愚かな親たち。学園内では好き放題している色恋騒めく跡継ぎたち。何とも滑稽な図だ。
 それからもう一つ。親たちの計らいがあった。少し下の身分の企業は他の企業に媚びを売り、あわよくば契約を結ぶという卑しいともとれる行為をしてこいと言外に言っているのだ。跡継ぎとしてそれに応えない他術はない。つまり拒否権は蟻ほどにも存在しなかった。
 しかもここの生徒は見目麗しき人が大勢集まっている。本来健全に育っていれば異性に向く矢印は全て同性に向けられているのでその顔がいい人たちはアイドル的存在になった。その中でも一際目立っている者たちがいた。生徒会だったり風紀委員会だったり特待生や兎に角家柄が良いもの――そして教師。
 生徒会や風紀委員会は抱きたい抱かれたいランキングという不可解なランキングの上位者が就くことになっている。選ばれる基準は家柄、容姿、学力を重視し、一番票が入ったその人物こそが生徒会会長である。
 他にも異常なところが、親衛隊という存在である。特定の人物を崇拝し、それに集る蠅がいればそれを排除する。苛めなんて可愛いものではない。リンチや強姦、下の身分であれば家を完膚無きまでに潰すという行為を非道にやってのける。しかしそれはもうこの学園の日常、常識となって波紋を広げた。