彼女はいとも簡単に息を引き取った。伏せられた瞼にそっとキスを落とすと、彼は堪らず粒を零した。透き通ったそれを拭うこともせず、ただ彼は嗚咽を噛み締めて静かに泣いた。
 その後、428_TAKAYAは消えた。最初は一日に何度もニュースが流れて話題になっていたそれも、暫くすれば落ち着いた。そうして428_TAKAYAという異彩にして異端だった男は静かに、静かに最初からいなかったように闇に融けたのだった。
 明るかったタカヤはもういない。
 今にも崩れそうなアパートに越してきたタカヤは何度となく自殺を計った。リストカットをしようと刃を充てたところで浮かび上がるのは彼女の笑顔。焼き付いて離れない脳裏のそれに為すすべもなく。

「くそ……! なんで、おれは、」

 怖い訳じゃない。だけどどうしようもなく胸が痛くなって苦しかった。

「ひどい顔」

 自嘲の笑みが浮かぶ。前の面影がないほど顔は青白く窶れ、髪もボサボサである。痛む胸を押さえたタカヤはリストカットを断念したが、次は絶食した。絶食したとは語弊がある。正しくは喉に何も通らなかった。口にしても逆流して吐き出してしまうなら食べなければいい。そう結論づけたタカヤに間違いを指摘する人物はいなかった。
 ある日。ぼんやりと重たい瞼を開くと、激しい腹痛がタカヤを襲った。眠気も吹っ飛び、嫌な汗が頬を伝う。腕には気持ち悪く斑点が数多浮かび上がっている。腕だけじゃない。足にも。もしかしたら顔にも。きもちわるい。吐き気が襲った。ああおれはしぬのか。薄れゆく意識の中驚くほどに冷静に状況を悟る。別に未練なんてない。本望だと目を瞑ろうとしたが、それは邪魔された。

「うわああああ!」