次に呼び鈴が鳴ったのは、数分後のことだった。俺はそれまでベッドでごろごろとしていたけど、どうやら的場が出たようで、俺は布団を頭から被って隠れた。
 こんこん、と部屋のドアがノックされた。

「雨宮、少し話があるから出てこれないかな? 的場の件なんだけど」

 ――担任だ。名は河谷。丸眼鏡が印象的な、ちょっと頼りな見える国語教師だ。
 出たくなかったが、的場の件については色々言いたいことや聞きたいことがある。俺はゆっくりとベッドから出て、何となく足音を忍ばせながらドアに近づく。
 ドアノブを持つ手が震えた。…大丈夫、この先に俺の敵はいない。

「――ああ、久しぶり、だね。雨宮」

 ドアを開けて、久しぶりに担任と顔を合わせた。見ない内に窶れたような気がする。この人を疲れさせているのは、あいつだけではなく俺もだろう。すみません、と心の中で謝罪した。

「的場、は…」
「ああ、ああ。それなんだけど、的場は転入生でね、」
「……え?」

 転入生?
 俺は担任の後ろでぼけっと突っ立っている的場を目を丸くして見た。…この学園に転入するのは凄く大変なのに。あの転入生は裏口だけど、こいつはどうだろう。…そんな卑怯な手で入ってきそうには見えないな。

「良かったら座って話さないかい?」
「…いえ、結構です」
「……そう、か」

 眉が下がる顔を見てしまい、急いで視線を逸らした。

「的場にはちゃんと部屋が用意されるはずだったんだけど、ちょっと色々問題が起きちゃってね。急遽、この部屋に変更したんだ」
「…はあ」
「本当は数ヶ月後に来る予定だったけど、的場が勘違いで昨日来ちゃったみたいで」

 俺は顔を引き攣らせて的場を見る。……どうしてそんな勘違いが起きたんだ。数日なら兎も角、数ヶ月って相当だろ。

 当の本人は相変わらず空を眺めて一言も発していない。話を聞いているのか怪しいところだ。――って、……まさか。こんな調子で話を聞いていなくて勘違いした、とか…じゃないよな……?