暫く経てば今日もいなくなるだろうと思って呼び鈴の音をぼんやりと聞いていたが、中々鳴り止まない。俺は眉根を寄せた。これほどしつこいのは初めてだ。一体どうして急に。
 そういえば、いつも何かしら言葉をかけてくるはずなのに、今日は何も言ってこない。…何か、あったのだろうか? それとも、まさか誰かが俺を奇襲しにきた? ありそうで怖かった。例えば親衛隊。あいつらは容赦がない。
 俺はベッドから降りて玄関に向かう。ドアは開けない。ただ、外の様子がちょっとばかし気になるだけだ。
 よろよろと覚束無い足取りで玄関まで向かい、倒れこむようにドアに手を付いてドアスコープを覗いた。そして、目を見開いた。
 ――…誰だ、こいつ!?
 ドアスコープの先にいたのは、無表情な男。ドアスコープ越しでも分かる、整った顔立ち。知り合いではない。だとしたら何故この部屋に。
 ピンポーン。先程より大きな音が耳に入ってきて、びくりと肩が跳ねる。急かすように、もう一度鳴った。次は三回連続。俺は意を決して、ドアノブを掴んだ。チェーンは付けている。大丈夫だ。自分に言い聞かせるように呟いてドアを開く。

「やっと開きました」

 男は抑揚のない声でそう言った。

「…誰、」

 小さく呟くと、真っ黒な目が俺を写した。人形のように整っていて、人間味がない。肌だけは浅黒く焼けていて、身長は俺と同じくらいだった。

「俺はこの部屋の住人です」
「……この部屋の住人って、ここは俺の部屋だ」

 ロボットのような男の不気味さに一歩後退る。じっと見つめられるとおかしくなりそうだった。…ただでさえ、俺は、視線が怖いというのに。

「ここはお前の部屋だったんですか」
「…そうだよ」
「でも、ここは俺の部屋です」

 進まない会話にイライラとする。…というか、こいつの喋り方は一体なんなんだ。

「お前と俺は同室です」
「――…え」

 思考が停止した。こいつと俺が同室…? そんなこと、一言も聞いていない。段々と青褪める顔で、ポツリと呟く。

「うそ、だろ…?」
「嘘じゃねーです」

 男は言った。

「早く中に通しやがれです」