あるところに428_TAKAYAというファッション誌モデルがいた。現役高校生でありながら、落ち着いて硬派な風貌に均等に鍛えられた筋肉と長い足をもった出で立ち。何よりもよく見れば吸い込まれそうな深緑の輝きに満ちた瞳に人々は波立った。ファッション誌モデルでもそこそこ有名になればテレビ出演のオファーも来る。しかし428_TAKAYAは多くの依頼を全て蹴ったのだ。決して表舞台に姿を現さないその人に益々騒ぎ立てた。そんな目立つ人物なら直ぐに見つかる筈だがしかし彼は誰にも気づかれなかった。雰囲気と髪色、そして伊達眼鏡で印象は百八十度違うのか、彼は普通に高校生活を謳歌していたし、驚くほどにサッカーが上手かったので部活動にも励んでいた。友人も数え切れないくらいいた。告白だって日常茶飯事。注目の的だった。しかし誰も気付かない。少し似てると言われる程度だった。
 高校を卒業し、大学に行く気も起きなかった428_TAKAYAはだらだらと、しかし幸せな日々を送っていた。親が既に他界し、身よりの人がいない428_TAKAYAを支え、幸せの全ての理由には大切な人の存在が大きい。明るくて人のことをよく考えて、表すなら日だまりだ。太陽のように暑い訳じゃない。染み渡るポカポカとした陽気。彼女の全てが大好きだった。
 しかしそれは案外、長くは続かなかった。積み上げてきた幸せの積み木は酷く簡単に崩れ落ちた。彼女は癌と診断された。目の前が真っ暗になるとはまさにこのことだろうとどこか冷静な自分にゾッとしたのはまた別の話だが。彼は考えた。彼女に支えられてきた恩はここで返せばよい。もしかしたら助かる奇跡だって起きるかもしれない。病は気から。常に彼女の傍にいた彼は明るく努めたのだった。

「ねえタカヤ、外は何であんなに綺麗なんだろう」
「外は穢いよ、凄く濁ってる」
「そんなことないよ。私は輝いて見える。ほらみてよ、あの初々しいカップル」

 窓から見下ろすと確かに若い男女はいた。しかし。

「いやあれはどう考えても男が尻にひかれてる…」

 「ねえタカヤ」彼女は蒼白い顔を仄かに花を咲かせて笑った。

「私、もう長くないんだ」

 ガラガラと音が鳴り響く。もともと脆かったそれは、パラパラと砂のように砕けて心に積もった。
「だから、ごめんね」
「有り難う」