……? ……!? 今俺何された!?
 状況が分からずぽかんと勇者を見つめると、勇者は満面の笑みを浮かべる。あら良い笑顔。……じゃねえよ! 何人の唇奪ってんだ! 俺男とキスしちゃったよ、キモッ! ぺっぺっ。慌てて口をごしごし擦ったが、勇者の目が笑ってなかったのでそっと手を下ろした。

「…テメェ、よっぽど殺されてぇらしいな、あぁ?」

 男にキスをされた俺を同情してか、魔王様は一瞬傷ついた顔をしてギロリと勇者を睨む。全身から邪悪なオーラが放出される。うん、正直に言おう。…めっちゃ怖い。しかし、勇者は全く気にした様子はなく、ニヤニヤとしたままだ。

「殺せるもんなら殺してみろよ、ほらほら」
「うわっ、ちょ、おま、揺らすな」

 ほらほら〜と言いながら俺の体を左右に揺らす。完全に俺盾として扱われてるよこれ!? 俺はヘルプを訴えながら魔王様を上目遣いに見る。早く勇者から解放されたくて涙目になってしまった。情けねー、俺ってば…。

「……っ! こんな時まで俺を誘ってんじゃねえよ!」

 えっ! こんな時までってなに!? っていうか俺は誘ってるわけじゃない、助けを求めてるんです魔王様! 察して!

「とにかく、そいつを返せ」
「返すもなにも俺のモンだし」

 また言い合いが始まってしまった。げんなりしながら、俺は二人を見る。いつの間にか体から手が放されていて、気付かれないようにこっそり後退りする。トスっ、と何かに背中が当たった。こんなところに壁はなかった筈だ。しかも何か体温的なものを感じる。恐る恐る振り返ってみると、真っ白な髪と水色の瞳。色の所為か、冷たい印象を受けるこの方は――。

「何の騒ぎ? 煩いんだけど」

 魔王様の部下で俺たち下っ端の上司であらせられるミズナ様だ! 眠りを邪魔すると酷い目に遭うと噂の…! こんなに近くで見たのは初めてで、まじまじと観察してしまう。体格が良いから女には見えないが、凄い美人だ。

「…ちょっと、君邪魔」
「うぉあ!?」

 襟首を掴まれてポイッと投げられる。容赦ねえなこの人! もうちょっと優しくしてくれても…と思いながら床に直撃した顔を摩る。

「あ? おいミズナ、テメェそいつに何しやがった!」
「三十七号、床とキスするくらいなら俺としようぜ」

 こんな俺に気遣ってくれる魔王様には感動した。勇者テメェは後で覚えてろ。



ミズナ

美人。眠りを妨げられることを何よりも嫌う。
魔王の部下だが腐れ縁で仲間をしているだけ。あと寝場所の確保。
魔王とかどうでもいい。