「はあ? こんな弱そーなのどうでもいいわボケ。俺はさ、気持ちよーく寝てたわけ。…それを邪魔してさあ…覚悟できてる?」
「す、…すまなかった」

 美しい顔が歪む。睨まれた魔王様は少し顔を青くして謝った。……魔王様を青ざめさせるなんてスゲェ…。一応部下なんだけどな、この人…。

「あ〜すんません。俺もう帰るんで――。おい、何座ってんだ、三十七号」

 帰るという単語にやっとこの状況から解放されると喜んだ俺は、襟を掴まれて嫌な予感に頬を引き攣らせた。

「あ、あの? 勇者さん? 何で俺の首元掴んでんですかね…」
「あ? だって帰るだろ?」
「いや意味が分からない」

 帰るなら手を放してくれ。そう言うと勇者は酷く残念なものを見る目で俺を見下ろした。何だか良く分からないが腹が立つ。絶対馬鹿にしてんだろテメェ。

「勇者テメェさっきからそいつに触りやがって…! そいつは俺と暮らすんだから手を放せ」
「俺と暮らすんだよこいつは」
「……何? 三角関係?」

 面白そうに俺たちを見回したミズナ様が口角を上げる。…三角関係って誰と誰と誰が!? この状況見て三角関係とか思ったんならミズナ様目がおかしいよ…。

「認めたくねーけどそうなるな…」

 えっ魔王様何言ってんの!? あ、そっか。俺じゃなくてもしかして好きな人が一緒なだけなのかも…。なんだ、早とちりした。
 納得してうんうん頷く俺は、さきほど勇者にキスされたのをすっかり忘れてていた。

「ふーん…。どっちもこのモヤシと暮らしたいなら皆で住めばいいじゃん」

 ミズナ様のとんでも発言に俺たちは目を見開く。…勇者と住むとか嫌すぎるんだけど俺。…あ、でも勇者の弱点探れるし、もしなんかあっても魔王様がいると安心だし…。俺はどっちか片方と一緒に住むより、そっちのほうが得策なんではと考えた。

「は?」
「…何でそうな――」
「そうしましょう!」

 笑顔でぐっと手を握る。三人の目が一斉にこっちを向いた。一人は愉快そうに、そして残りの二人は……。うわぁー…、酷く不満そうな顔をしていらっしゃるー…。俺は間違ったことを言ってしまったかと少し後悔した。

「ッチ。お前が言うなら仕方ねえ…」
「まあ、魔王と二人っきりってよりマシか」

 二人は少し考えた後、それぞれ渋々とした態度で頷く。
 かくして、俺――魔王様の下っ端――と勇者と魔王様の奇妙な共同生活が始まったのである。