(side:蓮)


 俺は立っていた。周りには、真っ黒な人影が多数存在して、それらは俺を囲んでいた。

「何でお前なんかが」
「消えればいいのに」
「最悪」

 ハッと目が覚めた。ぐっしょりと汗を掻いていて、気持ちが悪い。俺は咳を漏らして寝返りを打つ。
 毎日毎日、暴言の嵐。集団による暴力。悪意のある視線、陰湿なイジメ。友人たちの裏切り。――俺はもう限界だった。何で俺がこんな目にあわなければならない。俺は何もしていないのに。
 ピンポーン、と音が鳴る。びくりとして俺は縮こまった。毎朝、俺を迎えに来るのは――。

「おーい、蓮! いい加減出てこいよー!」

 転入生だ。どんどんと叩く音に耳を押さえて震える。きっと転入生の周りにはあいつらもいる。嫌だ、嫌だ、行きたくない。

「おーい! ……俺は蓮と一緒に行きたいんだよ!」

 隣にいる誰かに放っておけとでも言われたのだろう。しかし転入生は諦めない。煩くドアを叩いて俺を呼ぶ。生徒会の奴らだったら鍵を開けることが出来るということが、何よりも怖い。いつ開けられるかという不安い襲われる。…でも、開けられたことはない。きっと俺と関わらせたくないんだろう。そこだけは感謝している。

「ゲホッ、……っ、」

 ああ、まただ。熱は昨日より下がっているみたいだが、まだ気怠い。そして、咳は相変わらず止まらない。
 布団を頭まで被り、音を遮断する。早く、早く諦めてくれ。そう祈りながら、目を閉じた。


 次に起きたのは昼だった。休みを連絡していないが、きっとクラスのやつらは気にしないだろう。担任は良く部屋に来るけど、一度も入れたことはない。あの人は俺に優しいけど、だからこそまた裏切られるのが怖くて仕方ないのだ。
 暴力を受けているのもきっと知っているんだろうなあ、と思っていると呼び鈴が鳴った。噂をすれば影、というか。恐らくこんな時間に来るのは担任だけだ。貴重な昼休みを使ってまで俺のところに来なくていいと思うけど、やっぱりどこか嬉しく感じる。
 もう一度呼び鈴が鳴った。俺がでないことを知っているのに、何度も何度も訪れては鳴らす。罪悪感で胸がキリキリと痛んだ。