話は変わって、この学園には数週間前、転入生が来た。試験を満点でクリアしたその生徒は注目の的となった。それだけならまだいいのだが、その生徒は背が高く、そして頭が鳥の巣のようにもっさりとしていて、見るだけで眉を顰めてしまう。そして時代錯誤の瓶底眼鏡。煩い声に常識のない発言、態度。今度は違う意味で注目――というか、皆は汚物を見る目でその生徒を見た。
 ところが、この生徒は嫌われているばかりではない。何故か家柄と容姿が飛び抜けて良い人を惹きつけたのだ。更に転入生は嫌われた。そして、不運なことに、この転入生の隣の席になったのが蓮である。どうしたことか、美形たちよりも蓮を気に入ったらしい転入生は、接着剤のように蓮に付き纏った。それが原因で、蓮の友達は離れていったし、しかも仲良かった友人の一人は転入生に恋をしてしまい、蓮を疎ましく思うようになってしまった。
 美形たちに睨まれ、転入生に手を出すと美形たちから嫌われてしまうと考えた親衛隊たちから制裁をされ、蓮の心はボロボロだった。だからこそ、パソコン上の友人は本当に大切に思っていたのだ。それが、裏切られたということを知ったらどう思うだろうか?
 ひょんなことから、蓮は正体を知ってしまった。友人たちは皆、自分を最も嫌っている人物――つまり、この学園の美形たちだということに。そして、彼らも自分の存在を知っていて、騙し続けていると言うことに。

『どうしたの? 最近元気ないよね』

 新着メッセージが届いた。それを見た瞬間、体中から嫌悪感と不気味なほどの笑いが込み上げてくる。何て白々しいのだろう。自分を罵った口が、今こうして自分を心配しているなんて。蓮はパソコンを強制終了させて、また一つ咳をした。
 自分の体に異変が起こったのは数日前のことだった。いきなり高熱が出て、咳が止まらない。じわじわと連の体を蝕んでいくそれを、連は風邪だと思っていた。しかし、あまりにも熱が引かない。保健室に行った方がいいのだろうが、この学園の保険医も転入生の虜だという噂を聞いてから絶対に行きたくないと思っている。
 連はもう一度パソコンを立ち上げた。忌々しいメッセージを見て舌打ちをする。

『え? 全然元気だよ。心配性だなーリョウは』

 無表情でそれを打ち込み、送る。直ぐに安心したという内容のメッセージを受信した。白々しい、と連は舌打ちをする。どうせ鼻で笑っていることだろうと溜息を吐いて、床に寝転がった。フローリングの床にぶるりと震える。連は目を閉じた。