何でお前この状況で笑ってられるんだよ! 流石勇者なだけあるわ!

「テメェ…いい加減にしろよ」
「やだね。こいつは俺のもんだし」
「いやいやいや」

 何をおっしゃってるのこの人。いつ俺がお前のものになったよ。じっと見ていると、勇者が笑う。

「何、惚れた?」

 あー、うん、こいつ、痛い奴だ。っていうか、何で男に惚れたとか言ってんだよ。顔がいいからまだ許されるけど、俺が言ったら完璧殴られるぞ。

「なあ三十七号」

 耳元で囁かれ、びくりと体が震える。何だよと言おうとしたが、遮られた。

「俺と一緒に住んでさ、弱点とか掴んだらお前の敬愛する魔王様に褒められるんじゃねえ?」
「……っ!」

 俺はその言葉を聞いてバッと勇者を見る。た、確かにそうだ。でも、何で態々勇者がそれを言ってくるんだ……?

「おい、何こそこそ喋ってんだよクソ勇者」
「あ、まだいたの魔王。もう帰っていいぜ」
「あぁ……!?」

 ヒイイ。魔王様怖っ!
 青ざめて魔王様を見ると、ハッとしたように俺を見る。そして苦虫を潰したような顔をして顔を逸らした。え、ど、どうしたんだろう…。俺の所為、か…?

「なあ、どうよ、三十七号」

 え、またその話かよ。俺は無視しようとして、さっき気になったことを訊いてみることにした。

「それ、お前に何の得があるんだよ」
「お前とずっと一緒にいられる」
「は、はあ?」

 意味が分からなすぎて素っ頓狂な声を上げて首を傾げると、勇者は長い溜息を吐いた。

「お前、鈍すぎ」
「なっ! 馬鹿にすん――」

 俺の声はあるものに遮られた。柔らかい物が口に当たっている。目を見開いて近すぎてボヤける端正な顔を見つめた。