「いやいやいや、俺なんかが魔王様と住むわけには…!」
「あ? 何か文句あんの?」

 ギロリと睨まれてしまった。緊張で体が硬直する。いや、だって、そんな。魔王様みたいな方と俺なんかが一緒に住んで良いはずがない。住むならほら、幹部様とかさ。口を開こうとすると、じっと見つめられる。言えるわけないだろこれ。

「それにな、俺なんかとか言うなよ。俺がお前を指名したんだ。分かれよ」

 えっ。
 目を見開いて魔王様を見つめる。顔が赤い。ね、熱でもあるのだろうか…? え、っていうか、そういえば結局何で俺なんだ?

「あの…」
「ん?」

 柔らかく微笑んで俺を見る魔王様。ヤバイって。俺の心臓潰れちゃうって。

「何で、俺…なんですか?」
「はあ? …何でって、三十七号、お前が良かったから」
「それは大変嬉しいんですけど…その良かったって、例えばどこら辺が…」
「全部」

 全部!? 聞き間違いかと思って魔王様を見ると、矢張り顔が赤い。きっと熱があってこんなこと言っているんだ。だって、俺に秀でた能力なんて一欠片もないし、お荷物だから。そもそも魔王様が俺のことを知っていたってことから驚いた。…ま、多分役立たずとして知られたんだろうけど…。
 ん? もしかして、俺が役立たずだから鍛えようと思って指名してくれたのか? 何て優しいんだ魔王様…!
 感激してうるうると涙を浮かべると、ぎょっとしたように魔王様が目を見開いた。

「俺っ、頑張ります!」
「お、おう…」

 ずいっと体を近づけて意気込むと、更に顔を赤くして身を引く魔王様。視線は明後日の方向を向いている。――引かれてしまった! そう思って体を慌てて離す。

「じゃあ、先に行っておけ」
「はい! 俺何をしてたらいいですか?」
「いや、待っててくれたらいい。ジュースと菓子があるからそれでも摘んでおけ」
「は、はぁ…」

 あれ、俺って子ども扱いされてね? これでも成人してんのに…。いや、遠慮なくジュースと菓子は遠慮なく貰うけど。
 失礼します、と言って退室すると、二十九号が近づいてきた。何でいるんだ、こいつ。ニヤニヤとした表情から察するに、俺が魔王様に見限られたんだと勘違いしていることだろう。ふふん、それどころか一緒に住めるんだぜ。

「その顔…ふーん、まだ魔王様に呆れられてないらしいな」
「まあね」
「なーんだ、残念。じゃあ何の用だったんだ?」
「そう! なんとさ! 俺魔王様と一緒に暮らすんだよ!」
「……は?」

 目が細くなる。どこか危ない雰囲気を漂わせる二十九号だったが、今は更にそれが濃い。何か怒っているようだ。まあ、その理由は…魔王様のこと、だよな…。何でテメェなんかが、と思ってるに違いない。