「テメェ……!」
「ノアイ様はな、こうして参加者を殖やしていくんだよ」
「あぁ゛!?」
「よく考えることだな」

 猛り立った俺が怒りに任せて振るった拳はいとも簡単に受け止められた。胸が苦しい。何でだ、何であいつを殺す。俺を逆に蹴り飛ばした男は闇へと姿を消した。古い家の壁に背中を強打して痛みが広がる。そんなことどうでもいい。あいつが。そこではっと気がついてあいつに近寄った。

「おい、…晶良」
「ぐっ、…ぅ、くー、ちゃ、」
「無理して喋んじゃねえ」
「くーちゃ、おれは…っう゛っ」

 晶良。俺は弱くなっていく息を前に小さく呟いた。晶良は軽く笑って、そしてごめん、と音にならない声で呟いて。目を閉じた。手がだらんとぶら下がった。
 親友の死に直面した俺は歯を食いしばって血に染まった体を抱き締めた。晶良の胸から光のようなものが出てくる。なんだこれ、と思って手を伸ばす。暖かった。

「それ、魂じゃん」
「……っあぁ?」

 いきなりボーイソプラノの綺麗な声が聞こえて弾かれたように後ろを振り向く。ニット帽を深く被った幼い顔(しかも女のように見える)少年は八重歯をちらりと覗かせて笑う。

「…魂?」
「もしかしてオニイサン新参者? んー、失礼」

 音もなく近付いてきた得体の知れないそいつに驚く。それと同時に警戒心が芽生えた。腕を捲られて納得したように頷いた。「ああなるほど」

「参加者ではないみたいだね。あれ、でも何で意識を持ってんの? あ、まさかノアイから逃げてきたとか」
「あいつのこと、知ってんのか」
「そりゃ勿論知ってるよ。だって僕はFoolish gameの参加者だから」
「ふ…何だって?」
「愚かなゲーム。僕らは裏でそう呼んでるんだ。勝ったら金か命を貰えるんだよ」

 ああ、あのゲームのことか。ニット帽を被った俺より幾らか背が低いそいつから視線を外すと手の中のものを見下ろす。

 「どしたの、それ」そいつは魂を睨みながら言う。「いらないんなら僕に頂戴よ」

「なっ――。ふざけんな! これは晶良の…」
「あー、そういうこと。そこに倒れてる人、知り合いなんだ?」

 八重歯がキラリと光る。

「ねえ、助けたいんならノアイに言うといいよ」 きっと助かるからね。そいつは言った。ただし――。

12/07/25