因みに"また"というのは、中学の頃俺と一緒に留年したからだ。俺はただ馬鹿だからという理由があるが、あいつは話し方も見た目も緩いのにもかかわらず頭はそれほど悪くはない。そう、あいつは何故か俺に付き合って留年したのだ。今回はきっと出席日数か追試をサボって留年したのだろう。
 だらしなく歩く親友の後ろ姿は、いつもの飄々しさがなかった。何かが欠けたような、そんな。
 どうにもできない無力な自分に情けなさを感じていると、あいつの後ろを歩いている男に気がついた。いや、歩いているだけならいい。しかし、その男は親友を睨んでいた。一度も目を逸らさず、あいつだけを見つめて。しかも格好も怪しい。全身黒で覆い尽くされた男。それが気になった俺はそっちに足を向けた。


 「さっきから着いてきてさぁ、どーゆーつもり?」あいつは裏路地に入った途端振り向かずに言った。一瞬それが俺に向けられたのかと思ってどきりとする。って、んなわけねえんだけどさ。
 ああ、そう言えばあいつは気配には敏感だった。尾行されて気づいかないはずがない。

「ああ、お前俺が見えるのか」
「どういうこと?」

 漸く振り向いたそいつは男に向けた訝しげな視線を、その後こっちに遣った。一瞬俺に向けられたものかと思ったが、そんな筈ない。あいつには俺が見えてねえんだから。
 「……くーちゃん?」信じられないというような顔で目を見開いたそいつから発せられたのは、幾ら止めろといっても止めようとしなかったちゃん付けでの呼び名。少し懐かしさを含むそれは紛れもなく俺のことだった。

「どうして、くーちゃんが…!? だって、」

 激しく動揺した親友と同じように、俺も酷く心が乱れていた。だって、まさか、見えるなんて。

「何だ、つまりお前は霊感があるということか。……まあいい」

 存在を忘れていた男が声を発する。その言い方、まるで自分も霊だと言っているみたいだ。未だに何で、と呟いている親友に取り敢えず何か言おうと口を開く。しかしその前に鋭い音が閑静な裏路地に響いた。男の持っているそれからは煙が出ていた。

「……なっ、」

 俺は目を見開く。先程まで自分の前に立っていた親友は。地に平伏していた。黒いコンクリートに赤が染み渡る。