「うん?」ノアイはきょとんとして首を傾げた。俺は力一杯顔を顰めると、吐き捨てるように言葉を出した。「誰がやると言った」
 流れ的にもう俺が参加することは決定事項みたいになってるが、別に俺は未練もないし、そんな面倒なことをしてまで生きたいと思わない。

「え、やらないの?」
「やらねえよ、んなもん。くだらねえ」

 ちっ、と舌打ちをするとノアイに背を向けた。先程のようにペンが飛んでくることもなかったし、奴は何も言わなかった。少しの時間でノアイという男が自分の利益のために何でもやりそうだということを感じたがら、反応を示さなかったそれに驚く。

「帰る場所はあるの?」

 「テメェには関係ねーだろ」「ふーん、ま、どうでもいいけど」俺は出口と思わしき所へと歩を進める。奴はどうでもいいという割に酷く面白そうな顔をしてこっちを見ている。気味が悪い視線が纏わりついた。ドアに手をかける。
 しかし。

「君は絶対に参加するよ」

 奴の底冷えした視線と声に思わずぞくりとした。「あとそこはただの壁だよ。出口は反対」ノアイはふんわりと笑みを浮かべた。先程の名残など何もない。
 出口だと思っていたドア(の柄の壁)を苛立ちのままに蹴ると、早足で指し示された場所へ行ったのだった。


 ドアを出ると、そこは東京――しかも、俺の近所だった。
 そういえば俺は二年前に死んだらしいが記憶は全然残っている(つーか、死んだって言われねえと絶対気づかなかった。いや待て、そもそも俺は本当に死んでいるのか)。ま、取り敢えず家まで行くか。そう完結して見慣れた風景を背に歩き出した。いつもと変わらず人が多い。人々は無関心にただ、事務的に流れている。俺はそれを詰まらなく見た後、ふと思う。死んでいるのは本当なのかということにそういえばと思い出したが、それを試すいい機会ではないか? 道の真ん中に立っていれば直ぐに分かることだ。
 人が近付いてくる。本来日本人なら無意識に避ける習慣があるが。そいつは俺に気づくことなく、――通り過ぎた。
 「……ふん」俺は苛立ちを抑えるように小石を蹴った(物は触れるらしい)。

「……ん?」

 本来ならば人が邪魔だと鬱陶しがる道の真ん中で俺は見覚えのある姿を見つけた。そいつは赤と青が混じった髪を高く結わえていて、派手派手しく改装された制服だったものを身に纏った長身美形、俺の腐れ縁且つ親友だった男だ。二年前は高二だったのに今も制服を着ているということは、あいつまた留年したのか。