浅はかな行動は自身の首を絞める

この話には過度の暴力表現が含まれます。
読む際にはお気を付けください。また、注意を無視して気分を害した際、薬袋は責任を負いません。

(ヤクザ×口の悪い高校生)














 流太郎は夜の街を走っていた。ネオンで彩る世界から色を無くした場所を。息が上がる。おまけに今日は氷点下の寒さで、雪も遠慮なく流太郎の上に降りかかっている。
 流太郎が走っているのにはわけがあった。真っ黒の闇に包まれた人物に追いかけられているのだ。相手は走っていない。だが、永遠と追いかけて来るのだ。寒い上に恐怖でブルブルと体が震える。流太郎は先程自分が犯した罪の重要さに唇を噛み締める――。












 今日は恋人が肩を並べて過ごすクリスマス・イブ。先日彼女に振られてしまった流太郎の横に並ぶ人物はいない。流太郎は長い溜息を吐いた。周りには男女の組み合わせで溢れている。寒さを和らげるかのようにべったりと寄り添う二人の姿は、恋人のいない者にしてみれば苛立ちの対象以外の何物でもない。はあ、と気持ちを押し出すように息を吐く。白い息が一瞬夜の空気に現れ、直ぐに溶け込んで消えた。
 びゅうと風が吹き、流太郎は肩を窄めると紺色のマフラーで口元を覆い隠す。痛々しいネオンの下にいる流太郎は、只管に孤独を感じていた。
 別に彼女が好きだったわけじゃない。最初から興味すら持っていなかった女だ。あっちの方から好きですと告白された。好みじゃなかったので一度断ったが、尚も食い下がってきて、仕方なく付き合ったのだ。しかも、好きになることはないと思うけど、という言葉付きで。それを良いと頷いたのはあの女だったのに、と舌打ちする。
 ――どうして俺が最低やら何やら暴言を吐かれて終いには平手打ちをされにゃならんのだ。流太郎はその時のことを思い出して目を釣り上げる。もう顔も、名前すら思い出したくない。
 そこで流太郎は見るからに高級な車が裏路地近くに停めてあるのを発見した。あの持ち主なんて、いつも幸せに違いない。苛々としていた流太郎はニヤリと笑う。この苛立ちを少しばかり晴らさせてもらおう、と。
 ガンと思い切り蹴ると、今までにない快感が流太郎を襲った。一度蹴るだけで終えるつもりだったが、足が止まらない。いつしか顔には笑みが浮かんでいた。
「ふっ……っはは!」
「楽しいか?」
「あぁっ…、楽し――……え?」
「それはそれは…」

 流太郎の背筋が凍る。恐る恐る声のする方を見て、一瞬で硬直した。
 男は正しく闇と表現するに相応しい男だった。全身黒に包まれた男の瞳には、恐ろしい程の冷酷さが露になっている。何より男は美しい。こんなに顔の整った顔を今まで見たことがない、と男に見惚れる。男がくっと喉で押し殺したような笑い声を上げる。

「やってくれんじゃねえの…俺の車に」

 ハッと我に返る。サーっと顔から血の気が引いた流太郎は、直ぐさま踵を返してその場から立ち去った。男がじっとりとこっちを見て笑っているのに気づかずに――。
 そして、冒頭へと戻るのだ。

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