笑顔の裏の恋

王道不良×王道爽やか?









 毎日が退屈だった。クラスメイトの奴らと他愛もない話をして、部活に行って、帰って。へらへらと笑って優しくしていれば勝手に好意を抱いてくる。皆がやりたがらない仕事を引き受ければ尊敬の念を抱かれた。例えば同じクラスの不良が孤立しているから接してやる、みたいな感じ。そんなことが毎日、毎日、時計のように繰り返される。俺はそんな毎日に辟易としていた。
 そんな時だ。運命の人が現れたのは。

「俺は佐藤明! 明って呼べよ! 宜しくな!」

 名前こそ普通だったが、その元気な声と容姿に目を奪われた。鳥の巣みたいなもじゃ毛。それは顔の半分を覆っていて、更に分厚い眼鏡をかけている。見るからに不審者だ。金持ちの通うこの学校の坊ちゃん共は不潔だと囁き合いながら嫌悪の視線を向ける。しかし、俺は逆にそのギャップさに惹かれた。顔が緩むのが分かる。

「なあ、俺、結城尋って言うんだ。仲良くしてくれない?」

 俺がそう言うと、教室内は静まった。佐藤はそんな教室内の空気はお構いなしに、俺を真っ直ぐ(かはちょっと分からないけど)見てニッと口角を上げた。











 驚いたことに、明はこの学校に存在する特殊な組織、親衛隊を持っている生徒からの人気が凄い。同じクラスの不良や絶大の人気を誇る生徒会、そして担任など。生徒会との接触の時、俺は一緒にいたから分かる。明は人の内面に入るのが上手いらしかった。副会長の愛想笑いを初対面で気持ち悪いから普通に笑え、と言って惚れさせたそうだ。会長に遊びでキスをされて殴って気に入られたり会計には自分の体を大切にしろと説教し気に入られ、双子会計を完璧に見分けて気に入られ。
 親衛隊は嫉妬に狂っているが、本人は気にした風もない。そんな強さにもドキドキと胸が高まる。
 しかし、と俺は頬杖を付きながら不良――永良を見る。この一匹狼を貫いていた永良を懐かせるとは。俺は次はどんな予想外のことをしてくれるのかと期待に胸を膨らませながら、嫉妬した。他の男と仲良くしているのを見るのは面白くない。永良も、初めて見せる柔らかな顔で明を見つめる。イライラとした。
 俺が見ているのに気づいた永良は眉を顰めて俺を睨む。

「んだよ」
「いや、別に?」

 俺は人好きのする笑みを浮かべて首をちょっと傾げた。ここで嫉妬丸出しの態度はNGだ。俺はいつも通り笑顔を浮かべていればいい。そうすれば全てが上手く収まるのだから。

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