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 明が好きなんだと気づいたのは早かった。俺は明に親友だと笑顔を浮かべられ、少しがっかりしたがそれでも嬉しかった。でも毎日生徒会が教室に来ると、明は嫌がりながらも笑顔で着いていく。勿論俺はお呼ばれではないし、生徒会室に役員持ちや教師以外が入っていい場所ではないので俺は後ろ姿を見送る。じくじくと胸が痛い。何だか裏切られたような気持ちだった。親友だと言ってくれた割には俺のことなんて視界にすら入ってないような…。明への好意と怒り。自分の中でそれが混ざり合って、混沌とした。目の前の道が一気に消えて、周りが闇になったような感覚。どうすればいいか分からなかった。
 そういえば、最近永良がいない。あんなにもベッタリで番犬宜しく近づいてくる奴らに牙を向けていたのに。教室にもいない。明が来るまでは殆ど来ていなかったから、その時に戻ったみたいだ。その明も今はいない。俺は孤独感で一杯だった。

「あの、すみません」
「ん? どうした、結城」
「体調が悪いので保健室に行ってもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「えっ、大丈夫!? 結城くん!」

 俺を心配する声を上げるクラスメイトに礼を述べ、俺は教室を出た。体調が悪いというか、不安と胸のムカムカさで限界だったから抜け出した。保健室に行くと言ったからには行かないと駄目だろうな。俺は保健室に足を向ける。今は誰にも会いたくない。サボっていると思われてもいけないし、急ごう。
 早足に保健室に向かってドアを開ける。

「失礼します」

 保険医はいなかった。俺はシートに名前を記入してベッドに向かう。どのベッドもカーテンが閉められているが、いつも閉まっているので中に人がいるかは分からない。どうしようと考えていると、カーテンがシャッと音を立てて開いた。

「あ…」

 俺たちは互いに目を見開く。ベッドに寝転んでカーテンを開けたのは永良だった。まさかここにいるとは思っていなかった。体調が悪いのだろうか。俺は何を言おうか迷って、結局何も言わずに顔を逸らした。はっきり言って、永良は少し苦手だ。いつもならまだ当たり障りのないことをするっと口にすることができるが、今はそんな気分じゃない。

「おい、結城」

 どきりとする。永良に名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。無視されるか、おい、とかお前、とかだった。

「あ、えっと、何だ?」

 笑顔を浮かべると、永良の顔が不機嫌そうに歪む。俺の笑みが不快にさせてしまっただろうか。

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