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 何故か学校にあいつらは見当たらなくて、しかし鷹野は家に帰ってくると我が物顔で座して俺を待っていた。それは確かに普段通りだったが、決して纏う空気は普段のものではなかった。
  濁った瞳がこちらを向く。しかしそれはいつになく輝いているように思えた。多分光が反射してそう見えるだけだろうけど。

「ぼくは嘘を吐かないさ」
「…それ何回目だ」
「ぼくが存在する限り言い続けるよ」

 鷹野なら死ぬ間際でもいいそうだと思い、存外淡白にあしらった。「ああ、そう」自分でも鋭さを含んだ冷たい声音に驚く。

「つまらない奴」

 そう言って笑ったそいつはどうしてか薄暗く儚く、そして曖昧に歪んで見えた。俺は思わず手を伸ばす。しかし。

「さてと、そろそろ帰ろうかな」

 まるで俺の手を避けるように体を翻した。丁度影が差して表情は見えない。俺は色々な疑問が浮かんだが、それを口にすることはできなかった。

「――だよ、安田」

 静かな声が聞こえたのを最後に、俺の意識は途切れた。なんで、なんで。お前はなんで泣きそうな声を――。







 鷹野が消えた。それは家からであり、それ以外からも。

「鷹野? 誰だそいつ」

 姿が見えないあいつにどうしようもない胸騒ぎを感じて、鷹野のクラスに行った。教室にもいないあいつにどくどくと心臓が脈打ち、不安はどんどん膨れ上がる。俺は近くにいたやつに声をかけた。そして返ってきた言葉がこれだった。
 成績最優秀者の鷹野を知らない奴はいない筈だ。俺は半ば焦りながら説明する。鷹野は頭がいいんだ。しかも顔もよくて、それで。

「…そういえばお前、最近何もないとこに話しかけたり、独り言言ってたりしてたよな。疲れてんじゃねえの?」
「え?」
「じゃあな」

 どういうことだ。俺が独り言を言っていた? 何もないとこに話しかけていた? そんな筈はない。最近は幼馴染のあいつと鷹野と一緒で――そうだ、あいつはどこだ? 幼馴染も今日は見かけていない。いつも一緒にいるのに。
 一緒にいる? ……そうだったか? あいつはいつも――そういえば、あいつの。
 あいつの名前は何だ?

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