嘘吐きと馬鹿と薄情者

(嘘吐き×薄情者?/暗め)




「ぼくは嘘なんて吐かないさ」

 彼が薄く淀んで濁った瞳を生気のない顔をしながら俺に向けた。
「君がそう言ったときの百回中百回は嘘だ」
「つまらない奴」

 俺は小さく溜息を吐いて肩を大袈裟に竦めると、ソファーに体を今一度深く沈めた。彼は机の上に胡座をかきながら大きく欠伸する。この男、机に座るなと何度言ったって同じことを繰り返す。馬鹿なのかと思うが、実はかなりの天才児と言うのだから世の中は間違っている。因みに腐れ縁などではなく、一週間前にアパートのゴミ捨て場に何故か埋もれていたのを俺が拾ったのだ。それが同じ高校の成績最優秀者、鷹野だと知ったときはかなり驚いた。というか何故ゴミ捨て場に…。天才児は人と違うところがあると聞くが、まさにこのことだろう。つかいつまで俺ん家にいるつもりだろうかこの阿呆は。

「安田、一+一はなーんだ」

 この質問(というか小学生の問題)は三度目だ。一度目の答えは田、二度目は古、つーことは次はきっと由だ。俺は内心鼻で笑いながらも表面上無表情で答える。

「由」
「残念! 二でしたー」

 殴りたい。










 俺には幼馴染がいる。

「やっくん、おっはー」
「おう」
「いやあ今日もいい天気ですなあ。雪でも振りそう」
「お前にはこの雨が見えないのか。そして今は夏だ」

 しかも梅雨時期だ。

「そういえば野鷹くんがね」
「鷹野な」
「そうそう、野沢くん」
「誰だよ」

 人変わってんぞ、それ。呆れた視線を幼馴染にぶつけると彼女はにこりと笑った。察しの通りこいつも頭がおかしい。しかし学年で二番目(つまり鷹野の次)に頭がいいというんだから意味不明だ。鷹野とこいつ滅べばいいのに。

「もう、話遮らないでってば。田中くんがね、お昼一緒しないかって」
「お前…田中って原型留めてねえぞ。てか断れ。もしくは二人で食え」
「分かった! じゃあ三人で食べようね!」

 話聞けよお前……。







 昼がきてしまった。俺はげんなりしながら幼馴染の耳障りな声を聞く。楽しそうに(一方的に)話している彼女とボーっと宙を見ている彼。そして頬杖を吐いて溜息を吐く俺。カオスだ…。

「やっくん」
「安田ー」

 話しかけてくる声を全部無視して俺は目を閉じる。あー早く消えてくれねえかなこいつら。
 暫く声も音も何もかもシャットダウンした俺はさて飯を食おうと思い、目を開ける。しつこく声を掛けてきていたあいつらはいなくなっていた。これはラッキーだと思いながら弁当を開ける。「……は?」
 俺は弁当の蓋を開けたまま停止する。白い弁当箱にあるのは色とりどりなおかずではなく小さい梅干し一つ。
 犯人があいつらだということは断定している。……マジ殺す。

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