はちみつみたいに甘い

イケメン×平凡









 合コンに誘われた。喋ったことがほとんどないイケイケな感じのクラスメイトからだ。数が足りないから僕を誘ったらしかった。
 正直、行きたくなかった。そういう場は苦手だし、そのうえ仲が良くない人たちとだなんて耐えられない。僕を誘ったのだって、僕みたいな地味な人を呼んで、自分たちをよく見せたいからとか、惨めな思いをさせたいからに決まっている。本当に数が足りなくて急ぎで僕を選んだというのもあるかもしれないけど。だからって、普通喋ったことがあるかないか微妙なやつを誘うか?

「はい、じゃあ一人ずつ自己紹介していこうか」

 それでも僕がこの場にいるのは――断ることもすっぽかすこともできない小心者だからだ。
 僕はちらりと向かい側にずらりと並んでいる女の子たちを見る。彼女たちの視線は一つに固まっていた。もちろん、僕ではない。

「西北高校一年の山邊です。よろしく」

 そう言ってにこりと笑うハニーブラウンの髪の男。甘いマスクの持ち主は声まで甘いのかと一瞬どきりとした。西北は男子校だ。だから合コンで彼女を作ろうと思って来たのだろうか。ちょっと遊んでそうで、僕は苦手なタイプだけど、この場にいる女の子の視線を独り占めしている。
 ぼおっと自己紹介を聞き流していたら、苛立ちを含んだ声で呼ばれた。

「おいっ、七瀬」
「……えっ」
「次、自己紹介、お前の番だぞ」

 はっとして周囲を見る。僕をじっと見つめるたくさんの目。途端に体が強張って、じわりと手に汗が滲み出た。

「あ、ぼ、僕は…七瀬、です」

 高校も年齢も、自分の名前すらも満足に言えなかった。でも、皆はさっと僕から視線を外す。興味がないのだろう。でも、一人だけ僕を見ている人がいた。僕は訝しく思いながらその人を見る。目が合って、にこりと微笑まれた。――山邊という人に。



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