2

 なんだろう。なんであのイケメンは僕のことを見てくるんだろう。視線がびしびしと突き刺さり、僕はぎゅっと手を握り締める。

「ねえ、山邊くん」
「ん? なに?」

 イケメンの向かいに座っている女の子がイケメンに話しかける。その時漸く視線が外され、僕は息を吐いた。いつの間にか呼吸を止めていたようだ。

「……、」

 無言でオレンジジュースを飲む。当然僕に話を振る人なんていない。というか女の子が話しかけているのはだから僕に主にあのイケメンだ。性格が良いか悪いかなんて今の段階では分からないけど、チャラいんだろう、どうせ。イケメンだし、髪染めてるし。モテたいとはそこまで思わないけど、こんなにイケメンだだったら人生楽なんだろうな、なんて。
 ぐびぐびジュースを飲んでいたせいか、トイレに行きたくなってきた。まあこの場にいるのも気まずいし、トイレで時間を潰そうかな。ちょっと体調が悪くて、とかなんとか言って。まあ僕のことなんてどうせ皆興味ないし突っ込んでこないだろう。
 立ち上がる。ちらりと一瞬だけ視線が集まったけど、すぐに外される。僕がどこへ行こうと気になる人はいないみたいだ。ただ一人を除いて。

「七瀬くん、どうしたの?」
「えっ…」

 イケメンは不思議そうに首を傾げて訊ねてきた。なんで話しかけてくるんだ。しかも、まさか名前を覚えられているなんて。
 イケメンに話しかけていた女の子は不満そうに僕を見た。思わぬところで思わぬ注目を浴び、どっと汗が出る。

「あ、の…トイレに」
「トイレ? あ、俺も行こうかな」

 僕に非難の目が向いたのは言うまでもない。

[ prev / next ]



[back]