夜に舞う血の獣








極道の息子×主人公/暴力表現有/暗い/微ファンタジー/グロ/15禁









生きてちゃいけない人間なんていないと言うけれど。それが本来死んでいたはずの人間だったらどうなんだ? 神様とやらがいるんなら、俺がここにいる意味を教えてくれよ。――なんて。俺はくっと喉の奥で押し殺すように笑う。そして、足を振り上げ、天に向かって思い切り小石を蹴りあげた。きらりと太陽に照らされ輝いたそれは、あまりにもちっぽけな存在だった。














 息ができる。物に触れられる。声も出せる。体も動かせる。何一つ人間と変わらない俺。しかし人間とは言えなかった。俺は人間に認識されないからだ。霊とは違う、と思っている。俺が思っている霊と違うだけで、これが本当の霊の姿かもしれないが、本能的に違うと感じる。血が通っている。腹が減る。眠くなる。俺は確かに生きているのだ。
 俺は生きている。でも生きていてはいけない人間なのだ。俺はいつだったか、過去に死んでいたはずの人間だったのだから。
 俺は一体誰なんだ。訊ねたくとも、相手がいない。俺はこうして、何年も姿を変えず、ただひたすらに飢えを凌ぎ、欲を満たして生きてきた。これが日常となり、いつしか疑問の答えを求める気持ちなど薄れてしまっていた。
 今日も俺は、人間を見下ろしていた。夜の街は様々な色に照らされ怪しい光を放っていた。艶かしい女性が体を露出し男の腕に自身のそれに絡ませる。見るからに危ない男が拳を振り上げる。喧騒な夜の町は、生きていた頃には見ることのなかった世界だ。

「……あ」

 俺は目を見開いた。夜の町を軽快に走っていく男。遠くからでも分かるその美しさは、昔何かで観た銀の獣――狼のようだった。

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