2

グロ注意!





 気がつけば男を見失っていた。俺は酷く残念に感じて、男がいた場所を見下ろして溜息を吐いた。またここへ来るだろうか。久しぶりにわくわくと胸が躍る出来事だった。

「獣…」

 いや、獣ではない。獣のようであっただけだ。俺は頭を振って、獣を頭から追い出す。闇を一瞥し、体を翻す。
 今度はもう少し近くで見てみよう。どうせ誰も気づかないのだから。



















 それから何度か日が昇った後、男は再び現れた。俺は男の邪魔にならない場所に立って眺めていた。男の手に握られた黒いそれが人間の体に打ち込まれるのを。
 男はおそらく、その筋の男だろうということは分かった。チンピラなどはごまんといるが、核が違う。闇に紛れそうな褐色の肌、野獣のような顔立ち、獲物を逃がさない捕食者の瞳。高そうなスーツを身に纏っているが、それは赤く染まっていた。自身の血ではない。――あれは、返り血だ。恐ろしい男だ。恐ろしい夜の獣だ。脳裏に焼き付かれた残虐なる行為は、今まで見た争いとは比べ物にならないほど俺に恐怖を与えた。あんなもの、子供の遊びだと思ってしまうほど。俺は原型を留めていない人間だった塊から目を背ける。肉塊と赤黒い液体は俺の足元まで飛び散っていた。久しぶりに胃の中のものを吐き出したくなった。
 どうせ男には俺が見えない。俺が狙われることもないし、醜態を晒して逃げ出しても知る者はいない。それなのに、どうして俺は金縛りに遭ったように、この場から動けないのだろう。
 男はにやりと笑った。しゃがんで、肉塊を手に取る。やがてそれを己の口へと持っていき――喰らいついた。

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