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 イライラしている俺とは対照的に、クソ野郎は何だか楽しそうだった。それにまたイライラし、とっとと教室に戻りたいと思った。
 奴は階段をどんどん上がっていく。恐らく、屋上で話すつもりだろう。わざわざ屋上まで行くのはだるいが人がよく通る場所で話していちいちビビられたらうぜえからな。俺は無言で足を進めていく。
 屋上には先客がいた。しかし、俺を見るとさあっと青ざめ、慌てて去っていく。舌打ちをすれば、クソ野郎が声を立てて笑った。ぎろりと睨むと、うぜえことに、更に笑いやがった。

「んな怖い顔すんなって」
「……ッチ。早く済ませろ」
「はいはい分かってるって。金山は回りくどいのが好きじゃなさそうだから、単刀直入に言うね」

 クソ野郎は笑みを深くした。何かを企んでそうな顔だ。

「達也のこと、好きでしょ」

 ぎくり、と顔が強張る。以前もこいつは分かった風な口ぶりで言ってきたが、あいつは男だ。どうして好きという発想に至るんだよ。

「何言ってんだ、テメェ。んなわけあるか」
「ええ? でも俺、見たんだよね」
「何を――」

 何をだよ、と言いかけて、はっとする。まさか、見たっつーのは…。

「達也が君にキスされてるところをさ」

 別に、男に対してだってキスの一つや二つ、できる。あれは一時の気の迷いだ。特に意味はない。様々な言葉が頭に浮かんだが、言葉にはしなかった。何を言っても言い返されるような気がした。

「仮に、そうだったとして、テメェに関係ねえだろ」
「ま、直接は関係ないけどさ。達也が結構悩んでるんだよね」
「は? あいつが?」
「そうそう。君が、本当に自分のことが好きなのかなーって」
「……、…あ?」

 ひくりと頬が引き攣る。おい待てよクソが。
 俺の顔を見て、クソ野郎は憎たらしいほど良い笑顔で言い放った。

「ああ、達也は君の気持ちを知ってるよ」



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