サヨナラの月

幽霊×大学生/悲恋/シリアス


「別れてほしい」

 それが、俺が聞いた、最期の言葉だった。
















「遠野くん?」

 ふ、と意識が浮上する。視界がぼんやりしているが、電気と、人の顔は確認できた。俺は寝転がっていた。頭を起こそうとしたが、すぎずきとした痛みが俺を襲って起き上がることはできそうもなかった。

「大丈夫?」

 鈴のような声が、俺の耳に届く。まだはっきりしない視界の中で、目の前の顔が動く。目の前のそれが発しているのだと分かった。

「ここは…」

 声を出して、びっくりする。ガラガラ声だった。

「居酒屋だよ。遠野くん、急に倒れるからびっくりしちゃった。お酒弱いんだね」

 段々意識がはっきりしてきた。目の前にいるのは中学の時の同級生で、今日は同窓会だった。確かに酒は強くない。むしろ数パーセントしかアルコールが入っていない缶チューハイでべろべろになるくらい弱い。

「…ごめん、もう大丈夫」

 どうやら介抱してくれていたらしい。俺は今度こそ、起き上がって、周りを見る。和室の部屋。すぐ近くからぎゃーぎゃーと騒がしい声が聞こえる。隣の部屋に同級生たちがいるのだろう。

「そう? 無理、しないでね」

 女が心配そうな顔で、俺を見る。俺は大丈夫だと笑って、胡坐をかく。女――内山は、立ち上がる。

「水、貰ってくるね」
「あ、うん。ありがと」

 内山はにっこり笑って、襖を開けた。声がクリアになる。耳を塞ぎたくなるような騒音に頭痛が増した。



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