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男は訝しげな顔で俺を見た後、顔を逸らす。俺は未だ混乱しながら、男の隣に座る。じろじろと見ていると、我慢ならないといった様子で男が舌打ちした。
「なんか用?」
「…アンタが、俺の知ってる奴に似てたから」
男は酒を飲もうとして、ぴたりと動きを止めた。そしてぎぎぎ、と音がしそうなほどぎこちない動きで俺に顔を向ける。その顔は引き攣っていた。
「……お前、もしかして八田高?」
「そうだけど」
男はマジかよ、とがっかりしたように肩を落として呟いた。俺が結城浩先生のことを言っていると分かっている様子だ。ということは。
「お前、このことは――」
「先生の兄弟か何か? それとも従兄弟?」
「…は?」
今度はぽかんとした。マスターも何故だかあほみたいな顔をしている。俺は何か変なことを言っただろうか?
「えーと、秋。こいつの顔見て、その先生とやらに似てると思ったんだろ? 他にないのか、双子とか、同一…」
「おい、余計なことを言うな」
男がマスターの言葉を遮る。マスターの言葉に、ああ、双子の可能性もあったかと頷く。
「でも双子かもしれねーって思うほど、俺先生の顔覚えてないし」
「ああ、そうなの…」
隣の男の顔が強烈すぎて、記憶の中の先生の顔が霞む。というか先生ってこんなにきりっとしてないから、顔を良く知ってても双子とは思わなかったかもしれない。
男は俺のことを物珍しそうに見た。男が俺の好みの男だったら、にっこり笑顔をそいつに向けるのに。先生以上に性格が好みじゃない男に見つめられても、まったく嬉しくない。
「マスター、いつもの」
「はいはい」
マスターがささっとコップにオレンジジュースを注いで、俺に差し出す。男は微妙な顔をしてコップを見た。
「何だ、ジュースかよ」
「酒は未成年が飲んじゃダメだろ」
「その格好でその発言って…」
確かに俺は制服を着崩したり、髪を染めたり、学校サボったりするけど。ピアスは痛そうだから開けないし煙草は嫌いだし、酒は成人してからって決めてる。胸を張ってそう言うと、ああそう、という気の抜けた答えが返ってきた。暫く変な顔をしていた男だったが、は、と我に返る。
「お前何年? 明日学校行く?」
「ええ、何でそんなこと教えなきゃなんねえんだよ。学校は気が向いたら行くけど」
俺が何年だっていいだろ、と睨むと、男はにやりと笑った。
「行け。お前の秘密バラすぞ」
なんて奴だ…。俺は嫌味な笑顔を浮かべている男を睨んで、舌打ちした。
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