答えはノーで

不良男前教師×不良雰囲気イケメン/猫被り/ゲイ
















 俺の学校には真面目で優しい先生がいる。先生は学校一のイケメンと呼ばれるほど格好良く、人気が高い。生徒だけでなく、保護者からも支持を得ている。先生は誰にでも分け隔てなく優しく接するし話にも良く入ってくるが、自分に関することについては一切口を割らなかった。
 俺は先生と話したことがない。所謂不良と呼ばれる部類だから、まず学校にあまり行かない。遠くから先生のことを見たことがあるが、どうも好きになれなかった。性格も顔も好みじゃなかった。――好み、というのは、まあ、あれだ。そういう意味だ。誰にも話したことはないが、俺はゲイだ。男しか好きになれない。試しに女と一度だけ付き合ったことがあるが、すぐに破局した。女とキスとか、そういうのに嫌悪を抱いてしまって、やはり自分はゲイなのだと確信したのが中学の頃。
 俺の好みは活発な男である。野球少年とか良い。というかスポーツやっている男が好きだ。そんなことを考えながら夜の繁華街を歩く。ここを通って、裏路地を過ぎたところに俺の行きつけのゲイバーがある。男を漁りに行くわけではない。親しくなるというか…普段友達に話せないことを話すのが目的だ。横に座った人とか、マスターとか。ゲイと言っても男と付き合ったことはないし、体の関係って言うのもない。俺はノンケ相手に片想いしかしたことがなかった。好きな相手としか付き合いたくないから、俺はそういうお誘いを全て断っている。
 カランと音を鳴らして入店を知らせると、マスターがこっちを向いた。また来たのかという呆れの表情で俺に笑いかける。俺は片手を上げて、いつものカウンター席へ――向かおうとして、俺の特等席に誰か座っていることに気付いた。俺は眉を顰める。俺だけの席ってことはないが、俺はいつもあの席だったから、何だか盗られたような気分になる。広い肩幅に、高そうなスーツ。クリーム色の髪は柔らかそうだった。後姿しか見えないが、雰囲気でイケメンだと分かった。そして、金持ちっぽい。
 俺はちらちらと男に視線を遣りながら、カウンターへ足を進めた。男を見すぎた所為か、マスターが男を一瞥して、苦笑する。

「秋、悪いな。いつもの席空いてないんだ」
「あー、うん。見れば分かる」

 俺は男に聞こえるように少し大きめの、棘のある声で言う。男は漸く顔をこっちに向けた。俺は男の顔を見て、目を見開いた。――優しくて、真面目でミステリアスで学校一のイケメン、結城浩先生に似ていたからだ。遠くで見た時に生徒に囲まれて笑っていたものと同じ顔が、不機嫌そうな顔でこっちを見ている。

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