▼ 9
「それで? 俺に何か話したいこと、あるんだろ」
『あっ、はい…。あの、学くんのことで…』
学――原西のことか。ああ、と相槌を打った後、先を促してやる。
『…私のこと、気にしないでって、伝えてください…』
ふむ。…伝えてって、言われてもな。
「悪いがそれは無理だ」
『っどうして!』
「俺がお前と連絡を取っているとばれるから」
『…え、じゃあ、学くんは知らないんですか?』
「体が入れ替わったことは知ってるけど、俺が田中龍太郎だってことは言ってねえよ」
なんで、と不思議そうに呟く咲。俺は小さく舌打ちして髪を掻いた。
「なんだっていいだろ」
『す、すみません…』
ただ、恐れられてる俺が、可愛い物好きで、こんなことになってるなんて知られたくないだけだ。この体で可愛い物好きがばれたとしても、もとに戻った時、何も問題はない。
「あー、それにな、気にしないでいい、とか…自分の口でちゃんと伝えろよ。自分のあるべき姿に戻った時にな」
『…はい!』
咲が力強く返事をした。俺はスマホを握りしめて返事をしている自分を想像してしまって、口を引き攣らせる。近くで見ていたらきっとドン引きだ。元希はよくあんなに平然としていられるな…。
「咲」
『…はい?』
「あまり一人になるな。もし絡まれたらすぐに逃げて、元希に連絡しろ。…いいな?」
『…はい』
「あと、夜以外は電話はできるだけしてくれるな」
『はい、わかりました』
「ん、じゃあ、これで」
はい、という返事を聞いて、俺は電話を切った。そしてベッドに寝転がる。顔に腕を押し付けて、ふー、と長い息を吐いた。
目を瞑って、これからのことを考える。明日から、気合いを入れて女言葉を使わなければ。要注意人物のことも気をつけて…。そんなことを考えているうちに、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。
fin…?
長くなりそうでしたので、切ります。
これはシリーズ物になりそうな予感がするぞ…!長編にしたほうが良かったかもしれないぞ…!
以下登場人物紹介
田中 龍太郎(たなか りゅうたろう)
可愛いものが好き。犬だとチワワが一番好きだが姉が犬嫌いなため飼うことができない。
強面で若干デリカシーがないが、良い人。
原西 学(はらにし まなぶ)
小さいころから咲に恋をしている。
モテるが、同性からは嫌われている。
咲の体に入った龍太郎があまりに咲らしくないので別人だと思うことにした。
倉本 咲(くらもと さき)
龍太郎の体に入った、普通の女の子。
学のことが好きな女子から虐められていた。
藤山 元希(ふじやま もとき)
見た目は王子様だが、適当でチャラチャラした性格。
龍太郎の趣味を知っても引かずに受け入れた龍太郎の親友。
体が入れ替わったことに最初は面白がっていたが…?
[ prev / next ]
[back]