悪魔と俺と男と女

美形×平凡/NL表現少しあり?












 隣の家には悪魔が住んでいる。斎藤夏目。俺と同じで、今年高校一年生になったばかりだ。顔だけはモデル並みに整っている、性格破綻者。俺は嫌がらせばかりにしてくる奴が大嫌いだった。――そう、大嫌いだった。

「俺、彼女出来た」

 その次の日から、悪魔の興味は例の彼女へ移った。それまで構いっぱなしだった癖に。勿論初めは喜んださ。漸く解放されたってな。だが、一週間もすれば、モヤモヤとした思いだけが俺を占めていた。
 あいつの彼女を見るたび、あいつの笑顔を向けられている彼女をみるたび、そこは俺の場所だと思った。胸が痛かった。俺は、大嫌いなあの悪魔を、いつの間にか好きになっていた。それがライクではなくラブの方だということに気付いたのは、ある人物と関わってからである。その人物は、俺の目の前に現れて、こう言った。

「手を組まないか」

 名を平島豊久という。平島は、悪魔の彼女の幼馴染で、彼女のことが好きな男だった。手を組む――どうして俺なのかという疑問に、彼は答えた。

「君のことは知っているよ。…悪魔のことが、好きなんだろう」
「好きだって? 誰があんな悪魔」
「いいや、君は悪魔が好きだ。絶対に」

 だから、手を組もう。彼は言った。俺は絶対あの悪魔を好きじゃないと思ったし、もしかしたら好きなのかもしれないとも思った。熟考の末、好きということで落ち着いたのだが。

「いいよ、しかしどうするんだ」
「なに、簡単さ。俺と、付き合おう」
「……は?」
「俺はあの子が好きで、お前はあの悪魔が好き。あいつらが別れれば、互いに幸せになれる。だろう?」
「そんな簡単な」
「じゃあ君はこのままでいいの」
「…、それは」

 嫌だ、と心が叫ぶように、胸が痛くなった。「……分かった」渋々言うと、平島がいやらしい笑みを浮かべた。

「契約成立だ」

 その言葉が、ずしりと心にのしかかった。










 そんなこんなで、俺は平島と付き合った。表面上。というか、形式上。男同士で付き合ってるなんて周りに知られたら大変なことになるからな。ただ、俺と平島という組み合わせは少し目立った。俺は平島のようなタイプが嫌いで、平島も俺のようなやつを好きではないということが原因だ。そんな俺たちが仲良くしているということは、勿論あの悪魔たちにも伝わっている。そして何が変わったかと言えば、彼女ができてから目も合わなかったというのに、目が合うようになった。目が合うというよりは、睨まれているという方が正しいだろうけど。



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